海外の葬送事情

バリ島

静かで美しい海岸での火葬
 人は自然に還るものと実感


                         蓑原善和(九州支部長)

  昨年7月、九州支部では、バリ―福岡国際協会の城戸秀夫氏(インドネシアのバリ島在住)の話を聞きながら、同氏提供によるバリ豪族の葬送DVDを見る集まりをもった。

 バリ・ヒンドゥ教では、葬送は人の魂が天界へと旅立つ人生最後の、かつ最大の歓喜に満ちた儀式と考えられている。DVDの映像によって、5日間にわたって行われた荘厳かつ壮麗な儀式の様子や海岸で火葬された遺灰が椰子の実の殻に納められ海に散骨される様子など、バリの葬送の模様を知ることが出来た。そして悲しい顔をしている人を見ることもなく、われわれとは全く異なる死生観に基づいて行われる明るい葬送に深い感銘を受けた。バリ島では有力者の葬送はその準備に何ヶ月もかかるため前もって分かっており、外部からの参加も歓迎されそのためのツア-もある。

 集まりの参加者から、この葬送を実際に体験することは出来ないだろうか、またバリの美しい風物を見たいものだなど色々の希望が出された。九州支部ではこれを受けて、よしんば葬送に参加できなくても親睦を兼ねバリに行くことを計画、「バリの風を楽しむ旅」として、関心のある方に呼びかけた。熊本支部からの参加も得て7名で11月13日から5日間の旅を楽しんだ。

 バリでは6大寺院の1つ、海中に浮かぶ岩の上に立つタナロット寺院、テンガラン棚田、キンタマニ高原からのバトゥ-ル山(1717m)、アユン渓谷などの眺望を楽しみ、レゴンダンス、バロン舞踊、4音階、5オクタ-ブを作り出す大小14台の竹製楽器の強烈なアンサンブル演奏、ジェゴグなど民族芸能を鑑賞し、産物であふれるウブド市場、マ-ケットでは市井の人の生活を垣間見て、ナシ・ゴレン(焼きめし)に代表される色々なインドネシア料理、15種類のトロピカルフルーツを味わい、おおいにバリの旅を楽しむことが出来た。

 バリで迎えた3日目の朝、城戸さんからホテルに近いビーチリゾート地サヌ-ルで葬送が行われるとの連絡が入り急遽予定を変更、一同午後12時から行われた97歳で亡くなられた人物の葬送に参列した。葬儀では様々な儀式の後、お棺は高さ約3mの綺麗に飾られた櫓に納められ、30数人の担ぎ手によって大太鼓、小太鼓、鉦からなる約30人のガムラン音楽隊を先頭に僧侶、親族、縁故者、様々なお供え物を頭に載せた盛装の婦人達、花輪、櫓などの順に隊列が組まれた。そして櫓は町の辻ごとで魂が戻ってこないように回され、また櫓から伸ばされた白い帯は連帯の象徴であろうか、縁者の手に掲げられ、長い行列となって海辺の火葬場に向かって行進した。

 葬列は約20分後火葬場に着いた。櫓から降ろされた遺体は僧侶によって色々な儀式が行われた後お棺から出され、バナナの幹で組まれた焼き場に置かれた。そして多くの人が見守るなか、プロパンガスバーナーによって火葬された。木陰などで談笑しているわれわれ外国人その他の参列者にはカップに入った飲み水が配られた。そして空になったお棺は片隅の焼却場で燃やされたが、お棺を運んだ櫓も後で燃やされるとのことであった。

 火葬場に接するサヌ-ル湾の紺碧の空、そして散骨のために用意されていると思われる船を浮かべた海は、思わず息をのむほど静かに蒼く美しく、人の一生とその終末の在り方を改めて考えさせられた。そして人はまさに自然に還るものであることを、参列を許されたこの葬送から実感することが出来た。   

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「再生」第68号(2008年3月)

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