あの世への散歩道シリーズ

題字:あの世への散歩道

第22回  花と自然葬

                         民俗学者・酒井卯作
                         (題字・イラストも)

 絶世の美女、小野小町

 いや、魂なんてありませんという人がいたら、これは素晴らしい。体も心もその分軽くなり、活発に自由に行動できるでしょう。そんな人がいたら、後で相談したいことがあります。

魂 買います

 ところが日本では、「仏つくって魂入れず」という諺があって、魂が入らないと使いものにならないようです。私流にいえば魂とは道徳的な人格だと思いますが、人間は魂がなければ内容が整わないようです。

 単純に考えたら、生きていることは魂のある状態。死ぬことは魂が消えた状態だといえそうですが、しかしそうはいきません。一人の人間がいくつも魂を持っている場合があり、死んでも魂が消えるとはかぎりません。考えてみてください。世の中は闇です。一つしか魂が無かったら、落としたり盗まれたりしたらどうしましょう。

 安心して下さい。日本を含むアジア人は、余分の魂を用意していました。具体的な例をあげてみます。

 鹿児島県喜界島では重病人があると、豚肉を7片、紐で括って病院の枕元に供えます。なぜ7片なのか、それは病んだ魂を強化するためのまじないで、7個の魂を意味します。奄美大島の加計呂麻島では子どもが病気すると、7つの結び目をつけた紐を手首に巻いておけばなおると信じられていました。数は力です。力は安心につながります。沖縄でお産のとき7個の餅を紐で括って親類などに配る風習も、生まれた子に7つの魂を植えつける気持ちからでた行事かもしれません。

 つまり魂は7つあって、少々の病気や難儀に出会ってもへこたれないという祈願なのでしょう。野間吉夫氏の『シマの生活誌』によれば、奄美大島の南の徳之島では、魂を5つも6つも持つ人がいて、5、6回も病気をすると、この魂がすり減って真でしまうといいます。

 ところで、はじめに申し上げた魂を必要としないという方の、どうせいらない魂ならば、その魂を安く買いたいのです。その代わり、「あの人は魂を売った人間だ」などいわれても知りませんよ。そして安く買った魂を、私は病んでいる人たちに高く売りつけたいです。儲かりますぜ。

再生 第86号(2012.9)
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酒井 卯作(さかい・うさく)1925年、長崎県西彼杵郡西海町生まれ。
本会理事。民俗学者。
著書
南島旅行見聞記 柳田 国男【著】 酒井 卯作【編】 森話社 2009年11月
琉球列島における死霊祭祀の構造  酒井 卯作 第一書房 1987年10月
稲の祭と田の神さま 酒井卯作 戎光祥出版 2004年2月
など多数。

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