自然葬と現代社会・論考など

「自然葬についての質問紙調査」の概要報告

会員、専門・技術職の人多く
71%が2人以下の世帯暮らし
「葬送基本法の推進必要」83%


                     田口宏昭(熊本県支部長・熊本大学教授)

 本年7月から9月にかけて実施しました「自然葬についての質問紙調査」はお陰さまで無事終了し、ただいま収集したデータ(資料)の整理を進めています。今回の調査は「葬送の自由をすすめる会」のご協力のもとに全会員の方のなかから無作為に選び出された500名の方々にアンケート調査票を郵送させていただきました。そのうち9月末時点で313名(約63パーセント)の方々からご回答をいただくことができました。
 この度、おもな調査項目のいくつかを選び出し、その集計結果の概要をこの誌面をお借りしてご報告します。ご協力くださった方々に心から感謝申し上げます。

 まず(1)回答者の属性(性別、年齢、入会期間など)をご紹介し、次いで(2)自然葬をめぐる個別の質問に対する回答の特徴をご紹介する、という順序で書き進めることにします。ただし(2)に関して今回ご紹介するのは、準備の都合上、各設問に対する回答傾向の概略だけにとどめることを予めお断りしておきます。

(1)回答者の基本的な属性

●60歳代以上で82%、女性62%

 今回ご回答いただいた方々の基本的な属性は、ほぼ本会会員の全体の縮図になっていると考えられます。ただしこの縮図は、現代日本の平均的日本人の特性をあらわしているとは言えないでしょう。例えば性別、年齢構成、職業などどれをとってもかなり特徴的で、ある意味でいちじるしい偏りをしめしていると思われるからです。それがまた、本会の特徴であるとも言えます。次にこのことを少し細かく見ていくことにしましょう。

 回答者の性別を見ると、男性は37パーセント、女性は62パーセント、不明・無回答が1パーセントですので、女性が男性よりかなり多いという特徴が見られます。

 年齢別構成では、39歳未満は2名のみで、40歳代の方が3パーセント半ば、50歳代の方が13パーセント強、60歳代の方が30パーセント強、70歳代の方が34パーセント強、80歳代の方が14パーセント強、90歳代以上の方が3パーセント弱でした。60歳代と70歳代で全体の65パーセントを占めていることになります。さらに60歳代以上の方々で全体の82パーセント弱を占めていることになります。このことから会員には高齢者が多いという本会の特徴がよくあらわれています。

 同居人数に関しては、予想されたことですが、1人や2人という小規模世帯の占める割合が非常に多いという傾向が見られます。因みに2人と答えた方が42パーセント強で最も多く、次いで1人が29パーセント強でした。両者を合わせると全回答者313名中じつに71パーセントの222名が2人以下の世帯で暮しておられます。

 回答者が最も長く続けておられたお仕事、あるいはご自身にとって最も重要であった(ある)と思われる仕事として、ホワイトカラー的職業従事者がもっとも多いという結果が出ました。特にもっとも多かったのがホワイトカラー的職業に含まれる専門的・技術的職業で、4人に一人の割合でした(25パーセント弱の77名)。これは日本の平均値よりかなり高い数値を示していると思われます。次に多いのが「主婦」(12パーセント強)ですが、これを除けば次に多いのがホワイトカラー的職業に含まれる「事務職」「会社員・団体職員」等です。反対に農林漁業従事者は1パーセントの3名にしか過ぎません。

 以上が回答者についての基本的な属性の概要です。

(2)自然葬をめぐる個別質問への回答

 次に自然葬をめぐる個別の質問に対する回答の単純集計結果をご紹介します。

【入会理由】

●「墓があると家族に負担」49%
●「墓の費用が高いから」は13%

 回答者の約半数の方が「墓があると、管理などで家族に負担をかけるから」(49パーセント弱)と答えています。次いで10人中4人強の割合の方が「墓をつくる、つくらないは個人の自由であるべきだと考えたから」と答えています(43パーセント弱)。また3人に1人強の割合の方が「墓が増えることは自然破壊につながると思ったから」という理由をあげています(35パーセント強)。これとほぼ並ぶのが、墓をつくっても無縁墓になる恐れがある、とする方が少なからずおられることが明らかとなりました(33パーセント弱)。墓をつくる費用が高いから、という経済的理由をあげた方は予想外に少なかったようです(13パーセント強)。

【会員であることを知っている人は誰か】

 身近な人でも、回答者自身が本会会員であることを知る人は案外少ないという結果が出ました。因みに回答者が「すすめる会」の会員であることを知っている人を多い順に示すと、子(29パーセント)、配偶者(26パーセント)、兄弟姉妹(18パーセント)、友人・知人(16パーセント)と続き、親戚が知っていると答えた方は9.4パーセントにすぎず、回答者10人に1人の割合にも達しませんでした。このように子や配偶者でも知る人は3分の1に満たないことが明らかとなっています。

【自然葬に反対する人は誰か】

●最多は「子ども」次いで「配偶者」

 回答者が自然葬にしてもらうことに反対している人がいると答えた人は313名中37名(12パーセント弱)おられます。回答者自身が会員であることを知らない人は反対するはずはありませんから、これらの人々を除いたとしても、37名というのは多い数値だとはいえないでしょう。

 反対者で最も多いのが子ども(46パーセント弱、17名)で、その次が配偶者(32パーセント強、12名)です。親戚や兄弟姉妹でも反対する方がおられるようです(夫々21パーセント強、16パーセント強)。207名の回答者が、会員であることをわが子が知っていると答えておられ、そのうち5パーセントあまりに相当する17名の方のみ、わが子が反対すると答えておられるだけですから、知っていて反対する子どもさんは極めて少ない(8パーセント強)と言えるでしょう。配偶者の場合は、183名中たった6パーセント余りの12名の方のみが反対していると答えておられるので、子どもの場合より若干多いとはいえ、子どもの場合と同様、極めて少ないと言えるでしょう。

【散骨の経験】

 回答者のうち5人に1人の割合で散骨を経験されていて(21パーセント弱、65名)、そのほとんどは「すすめる会」と契約して散骨されています。民間業者と契約して実施された方が1名、どことも契約せずに独自に実施された方が2名、その他の方法で実施された方が2名おられました。また散骨経験者65名中、50名(77パーセント)の方が海で実施したと答えています。

【遺骨を砕いたのは誰か】

 散骨を実施した方65名に、遺骨を細かく砕く役割を負ったのは誰かと尋ねました。自分で遺骨を砕いた、と答えた方は半数弱の29名(45パーセント弱)、配偶者が砕いたと答えた方は4名、自分と配偶者の2人でと答えた方は2名でした。

【散骨後の死者の追悼】

●「仏壇などで焼香」33%
●「現地を訪ねる」は30%

 散骨後に行っている死者の追悼(複数回答)として、「仏壇などへの焼香」を行うと答えた方が65名中22名で最も多く(33パーセント強)、次いで「散骨の現地を訪ねる」と答えた方が20名(30パーセント強)でした。後者は予想外に高い数値でした。これに対して「お盆や法事などの行事に参加する」と答えた方はわずか9名でしたが、伝統的な死者儀礼から離脱していく傾向の芽生えを示す数値と言えるでしょう。「何もしない」と答えた方も9名おられるのも注目されます。

【自然葬の希望の場所はどこか】

 自分が散骨をされるのを希望する場所として「海」を希望する方が最も多い(66パーセント半ば、208名)という調査結果が出ています。次いで「山野」(26パーセント弱、80名)が多く、「川」ではごくわずかです(2パーセント弱)。詳細は分かりませんが「その他」を選んだ人も313名中19名おられることが注目されます。

【墓の有無】

 全回答者313名中半数強の162名(52パーセント弱)の方が、「現在、実家の墓など、あなたご自身が入ろうと思えば入れる墓がありますか」という設問に対して、「ある」と答えています。その方々のうち、墓参りの実施回数は年「1回」と答えた方が最も多く(23パーセント強、38名)、次いで多いのが4回以上(19パーセント強、31名)でした。

【墓は誰が管理しているか】

 調査結果をみると、ご自分よりも親戚が墓を管理する傾向があるようです。また、ゆくゆく墓の管理主体が拡散し、将来にわたって管理主体があいまいになっていくことが予想されます。因みに162名中最も多い31パーセント弱の50名の方が「親戚」と答え、次いで18パーセント半ばの30名の方が「自分」と答えました。10年後には15パーセントの方しか子どもに託さず、38パーセントの方が親戚に管理を託すが、30年後には12パーセント弱しか子に託さず、親戚に管理を託すと答えた方さえ24パーセントに低下し、誰かわからないと答えた方が47パーセントにも上りました。

【死後に魂は残るか】

 人が死んだ後、魂が残り続けるとは全然思わない人が最も多い28パーセント弱の87名、「どちらかといえばそう思わない」と答えた方と合わせると47パーセント強の方が「魂は残らない」と答えています。おそらくこれは、日本の平均値よりかなり多いのではないかと思われます。

【遺骨に魂は宿るか】

●「そうは思わない」が66%に

 本会会員の間では、日本人について一般的に指摘されているような遺骨信仰は極めて希薄だと言えるでしょう。因みに遺骨に魂は宿っているか、という問いに対しては「ぜんぜん、そう思わない」と答えた方が44パーセント強の138名、「どちらかといえば、そう思わない」と合わせると66パーセント半ばの方々が遺骨に魂は宿っていないと答えています。この場合も日本の平均値よりかなり多いのではないかと思われます。

【死後の世界】

 今回の調査結果からは「死後の世界」像が拡散し、多元化し、曖昧化している会員の方々の意識の現実が見てとれます。因みに、死後の世界があるとは思わない、と答えた方が最も多い140名(45パーセント弱)、「わからない」と答えた方が120名(39パーセント弱)でした。これに対して「あると思う」と答えた方は、はるかに少ない16パーセント弱の49名でした。死後の世界のあり場所については、「ない」と答えた方が39パーセント弱の125名で最も多く、次いで「わからない」と答えた方が35パーセント半ばの114名、死後の世界を明確にイメージされる方のうち最も多い回答は「天国」の9パーセントの29名でした。「浄土」(5パーセント弱)、「黄泉の国」(4パーセント弱)、「極楽」(1パーセント強)はいずれも少数です。

【散骨後に魂がおもむく場所】

 散骨後に魂はどこにおもむくかという問いに対して、「死後に魂は残らない」と答えた方が最も多く(32パーセント強)、ほぼこれと並んで多かったのが「わからない」と答えた方(32パーセント強)でした。はっきりと「おもむく」空間のイメージをもって答えた方のうち「天国」と答えた方が15パーセント強の48名、次いで「海のかなた」(9パーセント弱、27名)、「海のなか」(4パーセント弱、12名)と続きます。木、森、山と答えた人はごく少数でした。

【一握り散骨についてどう思うか】

●「大賛成」「賛成」合わせて73%

 本会顧問の山折哲雄氏による「一握り散骨」の提唱は会員から大きな支持を得ていることが今回の調査結果から分かります。一握り散骨に「大賛成」と答えた方は27パーセント強もおられました。「どちらかといえば賛成」と合わせると、一握り散骨に「賛成」する方は313名の73パーセント弱、228名にものぼります。

【葬送基本法の制定について】

 葬送基本法の制定を念頭において、「葬送の自由を守るために、法律の制定をすすめる必要がありますか」という設問を設けました。これに対して、「必要がある」と答えた方は258名(83パーセント弱)に上りました。「わからない」と答えた方が38名(12パーセント強)おられましたが、「いいえ」と答えられた方は13名(4パーセント強)のみでした。ここから会員の圧倒的多数が基本法の制定を支持しておられると考えられます。

【散骨場の限定】

 回答者の大半は散骨の場所を、一般的に言われている墓地に限るという考え方に反対しています。反対の方は246名(79パーセント弱)にのぼり、それ以外は「わからない」(17パーセント強の54名)、「賛成」(1パーセント半ばの5名)でした。

【国有林の開放】

 他方、国有林の開放については10人中7人の割合で非常に多く(68パーセント強、213名)の方が賛成しています。不賛成の方はわずか18名(6パーセント弱)でした。75名(24パーセント)の方は「わからない」と答えておられたので、国有林の開放の意味がよく伝わっていないのかもしれません。

【自身の宗教(信仰)】

 宗教(信仰)は無宗教だという方が10人中9人の割合で最も多い(61パーセント弱、190名)ことがわかりました。この数値は日本での一般市民対象の意識調査の結果と比べてもかなり高いと思われます。次いで多かったのが「仏教」ですが、多いと言っても65名(21パーセント弱)で、「キリスト教」22名(7パーセント)、「その他」21名(7パーセント弱)、「神道」5名(2パーセント弱)と続きます。このような宗教意識も本会会員の大きな特徴のひとつだといえるかもしれません。

 以上、回答者の基本的な属性と自然葬をめぐる個別の質問に対する回答の単純集計結果の概要のみをかいつまんでご紹介してきました。しかし当然のことながら、もっと知りたいと思われる事柄についてお答えするには、これだけではまったく不十分であろうと思われます。もし別の機会が与えられるならば、詳細についてご報告したいと考えています。

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筆者略歴 たぐち・ひろあき。1944年に大阪府に生まれる。73年京都大学大学院文学研究科博士課程(社会学専攻)単位取得退学。現在、熊本大学文学部教授。2000年6月から2003年6月まで「葬送の自由をすすめる会」九州支部長。

 著書、論文に
『病気と医療の社会学』(世界思想社)、
「医療における不確定性と権力」~『社会学論集 持続と変容』(ナカニシヤ出版)所収、
「終末期のケア」~『ケア論の射程』(九州大学出版会)所収、
「自然葬と現代」~『よき死の作法』(九州大学出版会)所収など。



再生 75号(2009.12)

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