国際交流

韓国との国際交流すすむ
韓国との交流会が実現するまで(2003-2006)のこと

(1)2003年 韓国より本会にアクセスあり
(2)2005年2月 韓国より事務局に来訪あり
(3)2005年9月 交流会の準備始まる
(4)韓国の自然葬運動へ連帯アピール
(5)2006年4月24日 ソウルで日韓自然葬交流会開催


(1)2003年 韓国より本会にアクセスあり

韓国に本会の“仲間”が発足

韓国自然葬実践運動連合の李外潤さんから「発起」文届く

 お隣の韓国に心強い仲間が出来ました。昨年末から今年にかけて韓国仏教団体総連合の元会長、李外潤さんが中心になって韓国自然葬実践運動連合が結成されたのです。現在、活発な世論啓発につとめています。

 運動の中核になった李さんは現在82歳。社団法人大韓老人会中央会の副会長をつとめ、以前には大学の先生もされ、社会的に影響力を持った方です。

 李さんが葬送の自由をすすめる会の自然葬に関心を持たれたきっかけは、数年前に韓国日報に載った女性の編集委員、張明秀さんのコラム記事。張さんは「平地の少ない韓国にとって日本の自然葬の運動は大いに参考になる」旨の記事を書いていました。李さんはそのコラムを読んで本会の運動に共鳴されたのです。

 お墓と風水占いの関係で遺族の禍福を左右するといった韓国に根強い古い習俗や、また大きな墳墓をつくって自然環境を破壊する愚かしさを反省し、本会の自然葬運動を韓国でも推進しようと考えられたわけです。李さんは、余生をこの運動にささげたいと述べられています。

 李さんは日本語で本会の安田睦彦会長と何度かの手紙を交わしています。本会の趣意書や会関係の10冊近い本などを参考にされたうえ、韓国自然葬実践運動連合の結成にこぎつけられました。

 相互友好交流計画の促進と自然葬の体験などのため、4月下旬に訪日される予定でしたが、体調を崩され延期になったのは、残念でした。発起文の内容は次の通りです。
                                (小飯塚一也)
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  葬礼文化定立のための発起

 すべての人間は平等である。自由と平等と愛と慈悲は浄土社会と地上天国を建設する要諦である。葬礼は自然親和的で、かつ愛国、人倫道徳に基づくべきである。

 狭い国土と都市化に伴う公衆衛生の必要から火葬文化は必然的な現実であり、未来の国土の保全上、埋葬から火葬へ、そして火葬後の遺骨の処理は法律の範囲での手続きにより遺灰を自然に還元する散骨が合理的である。  遺灰の科学成分は燐酸カルシウムで、無機質である。これを一定の山林は平野、河川、海岸へ還元することは自然汚染とは全然関係がなく、むしろ自然保全に役にたつものである。

 火葬後、遺骨処理のために納骨堂を建立し納骨墓を造成することは、自然を毀損するだけで、先進的でかつ未来志向的な葬礼文化とは言えないのである。  特に、自由と平等、智恵、慈悲、愛を大本に葬礼を考えるべきである。

 自然的な存在である人間は、死後だけでも平等でなければならないのである。すべての人々に平等で最も合理的な葬礼は、自然葬(仮称)つまり遺灰を自然界に還元する方法が理想的な方法であると考えられる。

 近年、葬事法の制定以後に行われる豪華墳墓、豪華納骨墓、豪華納骨堂を指向する祭礼文化は全体国民の間で相互違和感を持たせる傾向がないわけでもない。絶対多数の庶民のために法律が制定されるべきである。また、火葬の前に必ず故人の写真(肖像)は敬うべきである。

 全ての人間は妄想と執着を捨てなければならない。そして政府は自由、平等、愛国愛族、為先為孫(祖先と子孫のために)を根本精神として、自然親和的で、自然保全のため一坪の土地も一株の草木も棄損しない愛国的でかつ未来志向的な法律の制定研究に尽力しなければならないのである。

   2002年11月

                            韓国自然葬実践運動連合


(翻訳は、関西支部世話人の呉知恩・大阪樟蔭女子大学人間学部講師)

 

                                  (2003.6)

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(2)2005年2月 韓国より事務局に来訪あり

散骨を広げ、新しい葬送文化を創りたい
韓国・ソウル特別市の研修グループが本会へ
自然葬の実情や歴史について熱心に聞く韓国・ソウル特別市の担当者たち

 韓国・ソウル特別市の李寅培(リー・インバエ)さんや韓国葬礼業界代表など、市の葬墓問題を担当する5人が2月末、本会を訪れた。韓国では、ソウルや釜山などの都市部では火葬の普及が目覚しく、納骨でなく散骨の方向へ市民の意識を変えるために視察団を作り日本各地の施設や本会の活動を見学することになった、という。

 李さんらの説明だと、韓国では土葬から火葬へ向かう傾向が強まっている。最近は、ソウルでは60パーセント、釜山では70パーセントにのぼり、ソウルでは火葬されたうちの40パーセントが散骨される。このため、市は散骨墓苑をつくっている。

 ソウル市の中心を流れる大河・漢江にある長さ3キロに及ぶ中洲に出来たヨイドという地区は、国会議事堂や証券取引所などの公共施設や、新聞放送局などの高層ビルが並ぶ市の新興の副都心である。韓国では経済発展に伴い墓の開発がふえているが、もともと個人墓が中心ということもあって、「毎年ヨイドひとつ分が墓になる」といわれるほど深刻な社会問題になってきている、といわれている。

 2002年暮れ、韓国仏教団体総連合の会長をしたこともある李外潤さんから当会に、韓国自然葬実践運動連合という運動体を結成したという連絡があり、「再生」でも紹介した。その発起文には、こうした状況を裏付ける次のような記述がある。

 狭い国土と都市化に伴う公衆衛生の必要から火葬文化は必然的な現実であり、未来の国土の保全上、埋葬から火葬へ、そして火葬後の遺骨の処理は法律の範囲での手続きにより遺灰を自然に還元する散骨が合理的である」

 かつて、韓国日報という有力紙の編集委員が会を取材し、コラム欄に記事を載せたこともあり、韓国での本会の活動に対する関心がいろいろな方面から強まってきている、といえるようだ。

 会の運動の理念や歴史などを聞いたあと、5人は、「遺灰をまくのに法的制約があるのか」「散骨をした場合、どこで拝むのか」など、質問を連発しながら、「新しい葬送文化を創出するよう研究したい」と話していた。

 当初1時間の予定を大幅に超えて、自然葬の写真集などにも強い関心を示していた。
(2005.6)
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(3)2005年9月  交流会の準備始まる

来春にも、韓国で自然葬交流会を開催

火葬増え、儒教的風習脱皮はかる韓国
会の運動の理論的な背景に強い関心

 韓国のさまざまな機関や団体が本会に強い関心を示し、交流を求めていることはこれまでにもお知らせしましたが、その後もいろいろな接触が続いています。共同通信ソウル支局長・平井久志さんの「韓国の葬送事情」報告=本誌次項目=にあるように、最近火葬率が急上昇し李朝朝鮮時代以来の儒教による土葬文化が大きく転換しようとしています。会への視線の背景にそれがあるようです。会として学ぶものがあり、来春にもソウルで自然葬交流会を開催することを検討しています。

 ソウル市役所の研修グループ5人が会の事務所を訪れたことは、本誌57号で紹介しましたが、その後も2つのNPO団体から接触があったり、また、6月にはソウルの韓国中央大学の朴銓烈(パク・チョンヨル)教授(民俗学)が会の本部事務所を訪れたりしました。

 朴教授は、最近まで京都の国際日本文化研究センターの客員教授を務めた研究者です。韓国では火葬率の急上昇でこれまでの葬送システムの転換が迫られていること、国や自治体には、納骨方式だけではなく散骨の普及にまで進めようという狙いがあることなどを説明したうえで、「そのため、韓国でも散骨の背景や理論の研究が必要になってきた」と話していました。今回は、学術振興財団から自然葬の進め方、それが成り立つ原因などの調査を依頼された、ということです。

 テレビなどで放映される韓国映画やドラマには散骨のシーンが多く出てきます。10年ほど前に公開された「達磨はなぜ東へ行ったか」という映画の中でも、僧の遺灰を川にまく美しい場面がありましたが、朴教授によると現実社会ではまだそれほど一般的ではないようです。遺灰をまくときにつぶやくきまり文句は「申し訳ない」という言葉です。お墓を建てられないでごめんなさい、と故人に謝るのです。

 会を訪れたソウル市のメンバーは、「散骨の方向へ市民の意識を変えるために葬送の自由をすすめる会の活動や日本各地の施設を見学する」と、来日の目的を話していました。しかし、朴教授は市の散骨キャンペーンには保守的市民から「死者への侮辱だ」との反発が出て、市側は少し控え目にすることにしたそうです。それでも「土地問題は深刻であり、市もいずれにせよ研究は進めざるをえないと考えています」と話しています。  

 会から来春にも交流会を開催してはと提案し、朴教授は検討することを約束しました。9月の特別合同葬の見学に再来日する予定で、その際に再び話し合うことにしています。

 また、NPO団体の「韓国儀礼文化研究会」は、活動の目的を「葬墓の自由(遺粉の自然葬)を実践し、社会的な同意を広げて美しい生活と美しい永眠を準備する」こととするファクスを送って来ました。

 このNPO団体は、「再生」47号で「北東アジアの死生観と自然葬」という講演を紹介した崔吉城・東亜大学客員教授(掲載当時は広島大学教授)を通じて会のことを知り、運動に共鳴しているようです。9月にも発表会を計画しており、代表をしているキリスト教会の朴哲浩牧師は、同じ趣旨と同じ目的をもつ団体として発表会への代表派遣を求めています。本会としては、他のグループとの交流計画もあり調整したいと申し入れています。

 韓国と会の交流は、数年前から始まっています。韓国に会のことが紹介された最初は、有力紙・韓国日報の編集委員張明秀さんが会の事務所に取材に来て書かれたコラムです。張さんは、韓国でもっとも影響力のある言論人に選ばれたこともある記者で、その後、社長も務めました。「平地の少ない韓国にとって日本の自然葬の運動は大いに参考になる」というコラムに反響があり、共鳴した韓国仏教団体総連合の元会長、李外潤さんは韓国自然葬実践運動連合を結成しました。会とは手紙でやり取りが続いています。

 交流会が実現すると、これまでの「葬送の自由をすすめる」運動の経過をもとにさまざまな問題を話し合うことになると思います。運動の意味を見直してみる機会ともなり、また、運動の国際化は、少子化などの人口問題、経済成長に伴う都市問題や社会政策などといった幅広いテーマを考える機会にもなり、会にとっても有意義だと思います。  

                            (小飯塚一也)
(2005.9)(再生 58号)
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(4)韓国の自然葬運動へ連帯アピール


2006年4月24日、ソールでの日韓自然葬交流会開催を前に、2006年1月に本会が発表したアピールです。

         韓国の自然葬運動へ連帯アピール

 このたび、日韓自然葬交流会が開催されることになり、日本の運動団体として韓国の皆さんに連帯のアピールを送ります。交流を深めながら韓国の実情を学び、また、われわれの歩みを紹介しながら、葬送新時代を切り開いていきましょう。

 私どもの会は、葬送の自由と自然葬の啓発普及をはかるという目的を掲げて1991年に設立しました。当時、日本社会では海や山に遺灰を還す自然葬は違法といわれ、墓に入ることだけが認められていました。しかし、われわれは、葬送のための行為として節度をもって行うなら違法ではないと主張して同年に海で実施し、国もこれを追認しました。

 その後の15年間にざっと1100件、1900人を超す自然葬を行ってきました。いまでは社会的にも広く認知され、日本国民の3割近い方が自然葬を希望し、7割が自然葬を是認しています。

 運動がスタートして数年後、韓国日報論説委員で後に社長を務めた張秀明さんがコラムで当会の活動を紹介し、共鳴された韓国仏教団体総連合リーダーの李外潤さんからは交流を望む申し込みを受けました。李さんはその後、自然葬実践運動連合を結成されたと連絡をいただきました。また韓国の民間団体、自治体、研究者など各方面から当会の活動に関心を寄せられて事務所にもたずねてこられました。そうした積み重ねのうえに、昨年、韓国中央大学校文科大学の朴銓烈教授が日本の自然葬運動調査のため当会に来られ、こんどの交流会を実現する運びになりました。

 韓国では1998年の推定で2014万基の墓があり、国土の1パーセント、1000平方キロメートルを占有している一方で、最近は火葬率が急上昇し、従来の儒教に基づいた土葬文化が大きく転換しようとしているとききます。土葬中心だったキリスト教圏の地域でも、英国を先頭に火葬化が進むと必然的に自然葬が進み、スウェーデンでは本年から冷凍葬を取り入れる自治体が出てくるなど、世界の各地で新しい葬送の時代に向かう胎動が始まっています。

 李さんは、自然葬実践運動連合の発起文の中で、「自然的な存在である人間は、死後だけでも平等でなければならないのである。遺灰を自然界に還元する方法が理想的な方法である」と述べています。

 韓国での動きは、われわれの運動にとっても励ましとなっています。今回の交流会が葬送新時代の運動をどうすすめるか考える機会となるよう、話し合いたいと思います。

2006年1月

NPO法人葬送の自由をすすめる会

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(5)2006年4月24日 ソウルで日韓自然葬交流会開催

自然葬・樹木葬へ転換はかる韓国社会

ソウルの日韓自然葬交流会、会から31人参加
国が樹木葬林設置・運営へ法改正準備

 伝統的な土饅頭墓による国土侵食を防ごうと、急速に火葬・納骨方式に転換してきた韓国の葬送が、今度は自然葬・樹木葬に転換しようとしている――4月24日、ソウルの中央大学校大学院国際会議室で開かれた日韓自然葬交流会で、そうした報告が続いた。火葬・納骨方式が問題解決にならなかったことを正面から認め、国や自治体が自然葬・樹木葬林をつくっていくことを内容とした法改正へ準備がすすむ。墓埋法の古い枠組みに縛られ、葬送の新しい展開に対応できない日本とは対照的だ。 

会と交流のある李外潤さんも参加

 交流会は、会と中央大学校韓日文化研究院長の朴銓烈教授(日本伝統文化論)が昨年から企画をすすめてきた。今回は、大学主催で「韓日文化シンポジウム・自然回帰を指向する新しい葬墓方式」というタイトルが掲げられた。会から安田睦彦会長を始め会員31人が参加し、よりよい死と葬送をめざす市民団体エンディングセンターの井上治代代表らも合流した。韓国側からは、大学関係者や葬送問題をテーマとした運動団体代表のほか、会の活動に早くから注目し、実践してきた韓国仏教団体総連合会長の李外潤さん(85)が顔を見せ、盛り上がった。

 報告者は、安田会長や会の自然葬実務を担当する西田真知子さんら日本側3人、韓国側3人。

 安田会長は、東京都の水問題から始まった会16年の歴史を話しながら、「生者が享受するべき自然を死者が食いつぶすことへの反省は、今や世界的な問題になった」と結んで、国際的交流の必要性を強調した。

 韓国側の報告でまず強調されたのが、土饅頭墓に代わって1990年代から急速に導入された火葬・納骨堂方式が多くの問題を抱え、社会問題になっている状況である。主催者の冒頭あいさつでまずこう語られた。

 「伝統社会の解体で火葬率は急増したが、火葬後の遺骨をどのように処理するかに関する十分な代案は出されて子なかった。遺骨の納骨や埋葬の急激な増加は、新たな大きな社会的問題になった。墓地を設置するよりは、自然回帰を指向する方法が深く検討され実践されるべき段階に来ている。その過程に現れる問題を討議したい」

 韓国ではいま、火葬後の60パーセントが奉安(納骨)、40パーセントが自然葬だ。報告をまとめると、火葬・納骨に急展開した背景には墓地面積縮小のための国のキャンペーンがあった。地方自治体は条例を改正して火葬料金を下げ、墳墓にくらべ粗末に扱われがちだった納骨施設が立派な施設になってきた。2001年1月、「葬事などに関する法律」が改正されて、墳墓設置権の否認、期限付きの墓地制の施行、無縁墓の改葬条件緩和などの火葬奨励策がとられた。 

墓地面積ふやした火葬・納骨方式

 火葬と奉安がワンセットになったので、先祖崇拝の伝統にもかない、韓国社会に広く受けいれられた。面積が少なくてすむ日本式火葬・納骨がモデルになった。しかし、日本式は地上に石室をつくって遺骨容器を安置するので石材を多く使う。伝統的に豪華・大型の墓に向かう傾向もあり、山を切り崩した公園墓地には山崩れなどの問題も起きた。また、宗教団体などの営利を目的にした無理な開発や石材ビジネスがはびこり葬送の商業化がすすんだ。

 大規模な墓地開発にともなって、日本でも指摘されてきたようなことが韓国内でも問題となっていた。

 埋葬墓地の拡張は厳格に制限しながら納骨墓の拡張には寛大だったので、火葬キャンペーンの主旨と逆に墓地面積は拡大してしまった。2001年の納骨堂を最後に、ソウル市は奉安施設をつくらないことにしたという。

 報告者の1人で、国立民俗博物館研究員の金時徳さんは「単位面積が狭いからという理由で、日本式の火葬・納骨方式を十分な検討のないまま導入した。韓国は個人墓で、家族墓の日本方式との接合は無理だった」と指摘する。

 樹木葬への傾斜はそんな反省が背景にある。

 シンポジウムの報告でもこの言葉が連発された。しかし、その意味は日本で言われている「樹木葬」とは少し異なる。日本の「樹木葬」が、区画を細かく区切り、使用料などとして50万円もとる墓地葬であるのとは異なって、韓国では、森林や自然の大きな木の傍などで行われるケースが多い。

 「樹木葬の実態分析及び推進の方向」について報告した安佑煥・ソウル保健大学校教授は、ソウル市役所の葬墓計画担当者だった経歴がある。スイスやドイツ、日本などを視察したばかりだ。そのうえで、韓国でこの考えが広がり支持を集めてきた背景について、「昔から村単位に祭祀の中心に樹木があった。地方には今もその風習が残る。私たちは樹木に対することで安心し、親しみが形成される」という。

 高麗大学教授を務めた高名な林学者、金樟洙博士が昨年なくなり、遺言に基づいて遺骨が大学の農業演習林にあるブナの木の下に埋葬された。新聞やテレビが大きく報道し、関心の強さが示された。遺族は、木に「金樟洙おじさんの木」という札をつけるだけで、墓碑などはつくらなかった。  

樹木葬の付帯施設、極力制限

 スイスやドイツなどでは、樹木葬林には一切の付帯施設を設けない。墓地という考えは排除して山林育成の観点から管理されている。しかし、そのまま韓国にこのような考え方が採用できるかどうかは懸念されている。樹木葬林入口に小規模の祭室兼管理棟、合同焼香所などは設置されそうだという。

 「葬事などに関する法律」には、いまは自然葬に関する条項はない。しかし、山林庁は樹木葬を推進する方向を打ち出しでいる。改正のための準備委員会ができて法案がかためられ、「立法予告」されている。ことし、公聴会などが開かれていくという。

 その中で、自然葬の方法については、「火葬した遺骨を埋めたり、撒いたりするのに的確でなければならない」「容器に入れる場合、生化学的な分解が可能でなければならない」などとし、樹木葬については、「国家または自治体は樹木葬林を設置、運営」、自然葬の区域については、「区域では標識と最小の付帯施設だけ設置可能」などの規定が見られる。

 安教授は、「韓国型樹木葬は公共福祉サービスとして行うことを目標にしている。樹木葬林で葬墓サービスを提供することが国有林の経営目的にかなうという考え方だ。森の管理も国や公共団体が行い、墓地より森として樹木葬を普及させようという意思が示されている」と説明している。

 自然葬区域について「標識と最小の付帯設備だけ設置可能」などと規定しているのは、私有林の場合に起きる営利性の問題を最小限に抑える目的もある。

 シンポジウム開催に協力した「樹木葬を実践する人々の集い」という団体は、森林学や農学などの研究者の集まりだ。メンバーの1人は、「森林本位で考えるか、木に墓碑機能を認めるかなど、まだ内部で一致していないところがある」という。また、昨年から会と交流があるキリスト教系のNPO組織「韓国儀礼文化研究会」代表の朴哲浩牧師は「名札をつけ、供物を供え、樹木に霊を祀るというようなことになるのは心配だ。樹が倒れたりしたらどうなるだろう」と話していた。

 韓国内の議論はこれからも続きそうだが、山林庁などの姿勢は、自然葬への「国有林の開放」を活動方針の柱のひとつとして掲げている会として注目していかなければならない動きだ。

 シンポジウム翌日、安教授の案内でソウル市の北35キロの京幾道坡州市の山に展開するソウル市の火葬場や広大な墓地を見学した。坡州市は北朝鮮との軍事境界線や非武装地帯に接する農業地域で、火葬場は1987年にできた。ソウル市は、市の東西南北にこうした施設を計画したが、反対運動のため実現したのはここだけだ。

 火葬場は20基の焼却炉を持つ大規模施設で、墓地は山はだを頂上まで使って展開されていた。慶州の土饅頭型を模して小型にした墳墓、アメリカの墓地を模した埋葬墓、30センチ角の石のロッカー式納骨施設などさまざまな形式が展開されていた。韓国の葬墓問題への試行錯誤のあとともいえる光景だ。

 開発計画に責任者としてかかわった安教授は、「国の政策が埋葬から火葬へと大きく変わるなか、10年の短期間でさまざまな試みをしてきた。常に韓国にふさわしいものをと考えたが、いろいろな過ちがあった」という。

 山の頂上には、3500坪の散骨のための区域が最近つくられた。バラ、ツツジ、キク、ムクゲなどの花が区画ごとに植えられるなどの工夫もされていた。山里につくる案があったが、住民の反対がありこのような形になった。訪れたとき、前日に父の遺灰をまいたという家族連れが来ていた。日本語を話す婦人が、「土地が足らなくなるのでしょ。いいことですよ」と話していた。 

沿道に延々と続く土饅頭墓

 帰り道、バスの窓から、沿道の山に延々と続く土饅頭を目撃した。これでは墓だらけになってしまう、という韓国の危機感を実感させられた。

 シンポジウムなどの合間をぬって、会員は世界遺産になっている李朝時代の王家の位牌を祀った宗廟や宮殿の京福宮、民俗博物館や新設された国立中央博物館を見学したり、南大門市場などの見学をし、韓国料理を楽しんだ。

 参加した会員の鈴木小津江さんは「韓国の町にふれて、日本と変わらない姿にあたたかいものを感じました。韓国の自然葬は私の考えるものと違うということを知りましたが、違いがあって当然でしょう。それにしても人間1人が生まれて死ぬということは大変なことだと改めて実感しました」という。

 朴教授は「これからもこうした機会を持ちたい」と話している。共通しあう問題を抱え、会としてもテーマを改めてさらに交流を深めたい。

                                (小飯塚一也・記) 
「再生」第61号(2006.6)

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