会長室より   コラム

全国山林の荒廃を救うために間伐材で木棺づくりを提唱する

          

                         安田 睦彦

 1991年2月に本会がスタートしてまもなく私と会員ら40人ほどが、中国の自然葬を中心に葬送事情を知るため上海を訪れた。中国では沿海部の大都市を拠点に、早くから自然葬が国の政策として行われていた。上海市の民生局が主催する船での400遺骨の海洋葬に参加して実際を体験する目的もあった。

 各方面を見学して歩いたが、ある日火葬場をみせてもらった。事務所の壁にそってダンボール製のお棺がずらり積み上げられていた。きくと火葬希望者に貸し出され、遺体はそれに納められて運ばれてくる。火葬炉の前でお棺から出された遺体は炉に投じられ、残ったダンボール棺は、こわれるまで何度も再利用しているという。

 ダンボール棺の存在自体も日本からきた我々には驚きだったが、再利用の話にはさらに衝撃をうけた。船場吉兆の料理の使い回しに神経を逆なでさせられる日本人の感覚には、ダンボール棺の再利用、つまり使い回しはちょっと抵抗があった。

 黄河上流の黄土高原は、古代中国人が木棺をつくるために山林を乱伐した結果という説もある。木材資源の節約だけでなく、自然環境を守るという点からダンボール棺の利用は奨励されてよい。ただダンボール棺の再利用は衛生的にも問題があると思っていた。最近、中国から帰ったばかりの人にたずねたら、かなり前からダンボール棺の再利用は行われていないという。やはり衛生的理由かららしい。いま木棺を節減する主役として、ダンボール棺と並んで脚光を浴びているのが竹棺だという。ただ、中国は広いからお棺の材料がこれだけとは限りませんが……という但し書きつきだ。

 ダンボール棺は中国だけではない。日本や英国、米国などでも使っているが、日本での普及度は極めて低い。日本の木棺はほとんどがラワン材など東南アジアからの輸入材を使った合板製だが、コストの点でダンボール棺とあまり差がないためらしい。木棺にかわるお棺の研究もいろいろと進んでおり、近くコーリャン棺がお目見えするそうだ。

 その自然と資源保全の意味で、私は間伐材を活用した木棺づくりを提唱したい。

 全国の森林の約4割が人工林で、国有、自治体所有、私有合わせて約1000万ha、うち私有が670万haともっとも広い。間伐はほぼ10年おきに3割ぐらいを間引く必要があるが、人工林は各地で放置され、荒れ放題というのが実情だ。間伐しても採算がとれないからである。

 この間伐材を使って全国の年間死者110万人の木棺づくりをしたらどうか。

 最近、大手文房具会社などが、机、イス、書棚などを間伐材を使ってつくるようになったときいた。技術開発が進んだせいだ。机をつくるより、木棺をつくる方が楽だろう。間伐を促進して、荒れた山林を救い、輸入材による木棺をへらすことができれば、一石三鳥である。

 こうした“再生利用”のほかに、こんな“多目的利用”はどうだろう。

 幕末に活躍した京都の女流歌人で、美人と評判の高かった大田垣蓮月尼(1791~1875)は、いまでいえば“もったいない派”の元祖。「さしあたりいらぬ物をたくわえ候事、むだにて邪魔」(富岡鉄斎あて書簡)と考えていた。困った人には着物を脱いであげるなど、物にこだわらない質素な暮らしぶりだったが、ただ木の棺おけだけは、身近に用意していた。死んだときまわりの人たちをあわてさせない配慮からだった。ただ置いておくのはもったいないと、米びつ代わりに使っていて、貧しい人が死ぬとあげていた。
(2008.9)

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