海外の葬送事情

ノルウェー

市民が無料で埋葬される権利、法に明記
 公営墓地、20年借り受けた後は他の人へ


                  三井マリ子(女性政策研究家、ジャーナリスト)

 ノルウェーでは、首都オスロであろうと北極近くのカラショークであろうと、墓地はタダである。
 2009年夏、友人ベンテ・シェルヴァンが「夫の墓参りに行こう」というので、オスロ市の公営墓地につき合った。彼女の夫は、2006年3月、50代で病死した。「労働組合新聞」のジャーナリストだった。二人が来日した時には、我が家に泊まったりもした。
 実父、義母、実母、親友を次々に亡くして日本の墓事情について考えることの多かった私は、墓地について尋ねた。
 「オスロ市内じゃ墓地はとても高かったでしょ」
 オスロの物価はヨーロッパ1、2。東京を抜いて世界一だったこともある。ところが、返事は「墓地はタダよ」だった。


 三井マリ子さん

 私の親は、事情があって先祖代々の墓には入れなかった。両親の墓が必要になったら、どのくらい費用がかかるか気になり、調べた。東京の公営霊園の公募に応募して運よく当たったとして、最安値が100万円ほどだった。公営なのに500万円という所もあった。しかも墓石は別料金だ。お寺付属の墓ともなれば、檀家になることが必須条件で、気の遠くなるような高値が多かった。

 こんな日本の事情を話したら、ノルウェーの友人は「えーっ、お金のない人はどうするの?」と驚いた。「無縁仏の墓とかがあるけれど…」と答えたものの正直よくわからなかった。彼女は「ノルウェーの場合、20年間無料で使えることになっているのよ」と言った。

■住民3パーセント分の墓地、常に用意

 夫スヴェーレの墓は、北墓地にあった。背の高い緑の樹木が強い夏の日差しをさえぎっていた。巨大な公園といった風情だった。ゴミひとつ落ちてなかった。私たちは花に囲まれた横長の小さな墓の前に到着した。

 彼女は、墓石の周りの雑草を抜きながら言った。「土地は限られているのに、亡くなる人は年々増える。だから、20年間たったら墓地を他人に譲るのは、とても合理的だと思うわ」

 友人との墓談義からノルウェーの墓地・埋葬に関心を持った私は、さらに自分で調べてみた。まず、基本的データをあげる(ノルウェー外務省編「ノルウェーデータ2010」)。

 面積305,470平方キロメートル/ 人口4,858,199人/ 死亡41,449人/ 月間給与 男37,100クローネ、女32,300クローネ/ 国教ノルウェー教会所属数3,874,823人/ イスラム教92,744人/ ノルウェー・ヒューマニスト協会80,300人/ ローマカトリック教会 57,348人

 ノルウェー国の「墓地、火葬、および埋葬に関する法律」(以下、埋葬法)は1996年にできた。その6条は「墓地の権利」。これが、友人の「墓地はタダよ」の根拠だ。条文には、「死亡した時、市内に居住していた故人は市の墓地に無料で埋葬される権利を持つ。これには、母が市内に居住し、死産となった子どもの場合にも適用される」とある。

 墓地の管理は「教会と自治体議会の協働でなされる」とあり、管理責任者は、自治体葬儀事務局である。オスロ市葬儀事務局長のマルガレート・エックボは、「2009年は、300万クローネ(4,500万円)の公費が出ています」と市広報誌で述べている。国教である教会の運営・維持は、別途、国費で賄われている。

 教会の持つ広大な土地の一角を、死者に最も近い遺族が20年間借り受ける。たとえばオスロ市の公共墓地に葬られたい場合は、オスロに定住している住民であればいい。ただし、20年以上借りたい場合は更新費用が必要とされる。墓地の有期無料賃貸制度は、スカンジナビア諸国共通のものらしい。だが、アメリカはまったく違う。「ノルウェーの死と埋葬の慣習について」というインターネットサイトで、ノルウェー人と結婚したアメリカ女性が、違いをこう書いている。和訳は筆者(以下同じ)。

 「アメリカには、墓地の厳しい法律があります。スカンジナビア人がミネソタ州に来て、100年以上も前に死亡した親戚の墓が残っていることを見て、たいそう驚きました。一方、ノルウェーで夫の先祖の墓参をした私は墓石がないことに驚きました。先祖の墓であることを証明する物的証拠はないのです。

25年間(ママ)埋葬されたら、墓地は他人に譲られ、棺は朽ち果て、骨や杯は粉塵となり…。もし墓石が期限までそのままだったら、教会に記録だけを遺して管理者が取り払ってしまうそうです」

 ノルウェー人が重んじる価値観の一つに「平等」がある。すべての市民に無料で埋葬できる権利を保障するという平等の精神を貫くには、確かに合理的である。かくして、ノルウェーのすべての自治体は、少なくともそこの住民の3パーセントにあたる人びとの埋葬ができるように、公営墓地を常に用意することになる。

 だけど、待てよ。たとえば、19世紀の文豪ヘンリック・イプセンなど歴史上の大人物の墓参もできないのだろうか。

 こんな私の素朴な心配は、埋葬法18条「使用の期限」が解消してくれる。この条文には、「芸術文化的価値のある墓石はできる限り遺す」という例外規定がある。オスロ市内の墓地には、歴史に名を残した人たちの墓がいくつもあり、私たちは墓地で「ノルウェー史の散歩」を楽しむことができる。

■「ブリーフケース型」に限定される墓石

 友人の場合、オスロ市の葬儀事務局から、まず居住地であるオスロ市内東アーケル地区の墓地にある2つのエリアから選ぶようにとの通知が来た。夫の前妻との間の娘と相談してエリアを選んだ。次に、1人分か、2人分か、さらに多人数分の遺灰が納められるものが必要か、を決めた。大きさについては、いろいろだ。火葬をしない遺体まるごとを入れた箱を土に埋める地方がまだあるが、オスロの場合は、ほとんどが火葬なので1人分は小さくていいのだ。

 墓石は、墓石会社に依頼して名前を彫ったものを作ってもらう。その費用は、遺族持ちで、友人に言わせると「だいたい4,000~5,000クローネ(6、7万円)」だ。墓石の前には小さな花壇がついていて、花植えや掃除などの管理は、遺族の責任とされる。遠くに住んでいるなどの理由で日ごろの管理のできない場合、有料で管理を依頼することもできる。最近は、世話に来ない遺族も多く、墓地全体の環境美化を保つための労働者を増やす傾向にある。その数、2009年のオスロ市はフルタイム計算で127人である。

 友人の夫が葬られた墓地に並ぶ墓石は、ほとんど同じような高さ形で、同じような色をしていた。ノルウェー人は、集団行動が苦手で、個性豊かで、独立性を重んじる国民性だと言われている。私の友人にもそういう人が多い。だから、私は、墓石もユニークなのかと思ったら、墓石には頓着しないようだ。

 ノルウェーの老舗葬儀会社の4代目だというジョセフ・ベンツェンが、おもしろいことを書いている。葬儀業の国際会議で彼が発表した報告書「ノルウェー、スウェーデン、デンマークの葬儀業について」(2003年7月)から引用する。

 「墓石の大きさとデザインは、新しい埋葬法によって厳格に決められている。従って、他のヨーロッパ諸国の墓地と比較すると、最近のノルウェーの墓地は、規格的で、単純で、退屈です。私たちの業界では、この新しい墓地を『ブリーフケースの駐車場』と呼ぶ。巨大サイズのブリーフケースが並ぶように、何の変哲もない墓石が、整然と置かれているからです」

 しかし、こうも強調する。「社会民主主義の長い伝統が、我々の葬儀の文化を形づくってきた。それは平等を重んじたいという国民の考えかたの表れであり、さまざまな分野の人々の間に目に見える差違はないほうがいいという国民の希望の表れなのだ」

 彼は、葬儀費用について「ノルウェー人が葬儀にかける費用の平均は、18,000~22,000クローネ(日本円で約25万円から30万円、)」と述べている。

 友人ベンテ・シェルヴァンの夫の葬儀費用は40,000クローネ(約55万円)。もう一人の友人の母親(歯科医師)の場合は、50,000クローネ(約70万円)だと聞いた。人によって多少の違いはあるが、墓石だけでなく葬儀も驚くほど安価だ。

 さらに、ノルウェー社会福祉の土台となる「国民保険法」は、その13条(埋葬手当)で、経済困窮者であることが証明された場合、葬儀を賄うための手当が、上限19,344クローネ(約27万円)支給されると定めている。

 ノルウェー埋葬法は、「故人に親類縁者がいないか、もしくは親類縁者が葬儀を拒否している場合、葬儀をあげられなくなります。その場合、市が市の責任で葬儀をあげます。その費用は市の公費が拠出されます」とも定めている。

■キリスト教会墓地にイスラム教徒の墓も

 ノルウェー人といえば、金髪に白い肌の長身をイメージしがちだ。しかし、実際は10人に1人が移民出身者である。

 市は、埋葬に関して、キリスト教以外の宗派の人たちであっても市民であれば誰でも受け付ける。墓参の帰り道、友人は「ここはルーテル教会の土地だけど、イスラム教の人も埋葬できるのよ」と言った。

 この件に関して、オーモット市オ―レ・ナルッド市長に取材した。彼は、「新聞に、キリスト教の教会に他宗教の人を埋葬することに批判的な意見が載ったことがありましたねぇ。しかし我が市民からそういう批判は一度もありません。そのような声は、一般的には感受性がないと思われます」と言った。とはいえ、現政権の移民制度に反対し、移民に厳しい政策を訴える政党「進歩党」は、選挙のたびに票を伸ばす。オスロ大学は、ホームページ「別離――多文化社会ノルウェーにおける死と死別」で数々の情報提供をしている。印象的な記述を要約する。

 「死者に対する敬意:遺された人が故人の遺体を適切に処置する責務を持ちます。看護士が書く死亡報告書を医師が確認し、体から医療器具をはずして、全身を洗浄し、髪や爪を整えます。その後、宗教的理由などから手を加えることを希望する家族がいます。イスラム教では、死体をメッカの方角に向け清拭は同性でなければなりません。オスロの国立病院には、イスラム教の儀式にのっとってやれる特別室が用意されています」

 「火葬:オスロでは遺体の80パーセントが火葬されますが、イスラム教、ユダヤ教など火葬を禁止する宗教の信者も多くいます。ノルウェーで火葬が紹介されたのは1888年です。ルーテル教会から猛烈な反論が起こりました。火葬を許可する法律が制定されたのは、10年たった1898年です。しかし、火葬場が始動するまでさらに10年ほどかかっているのです。キリスト教でも、ローマカソリック教会の火葬解禁は1963年です」

 「墓地で出会った2人の会話:『あるノルウェー女性が、亡き母のお墓に花を置くために墓地にやってきました。ふと、隣のお墓を見たら、外国人らしき男性が、ご飯を入れた茶碗をそのお墓に置いていました。女性は、『いつ、死んだ人がそのご飯を食べるのですか?』と聞きました。すると男性は『そうですね、あなたのお母様がその花の香りを嗅ぐ頃でしょうか』と答えました」

 「大きさや場所:ヴァイキング時代、埋葬塚の大きさは、社会でどれだけ尊敬を集めていたかを示すものでした。健康法が制定される1805年以前まで、一般人は教会の庭に埋葬され、金持はお金を積んで教会の地下のしかるべき場所に埋葬されるしきたりでした」

■埋葬法第1条に明記される「自然葬」

 私のパートナーは、「僕が死んだら遺灰を山か海にぶちまけてほしい。葬式などいらないよ」とよく言う。しかし、日本でも散骨希望者が増え認知度もあがっているとはいえ、法的には規定されていない。ノルウェーはどうか。埋葬法は、その1条「埋葬場所」で、自然葬をはっきりと認めている。

 「埋葬は、1969年6月13日施行の第25条宗教団体に関する法に従って、登録済の教会によって管理される公共の墓地にされなければならない。故人を海底または野外に埋葬する場合は、自然葬とされる。故人を公共墓地に移動する以外の目的で、自然葬の場所に触れてはならず、また壊したり悪用したりしてはならない」

 さらに20条は「プライベート埋葬、散骨」と名づけられ、散骨について定めている。これは県知事の承認制だ。

墓
写真説明=オスロ市の北墓地にある友人の夫の墓(筆者撮影)

 「県知事は、特別な事情がある場合、適切な場所にプライベートな埋葬地を造るための許可を与える。県知事は、許可する際、条件をつけることができる。県知事は、遺灰を風に撒く要望――15歳以上の者――に許可を与えることができる。この許可は、故人が散骨を遺書に書いた場合に与えられる。このような許可は、親族が希望した場合に子どもの遺灰にも適用される。県知事は、この許可の際、条件をつけることができる。このような埋葬について、教会の介入はない」 というわけで、私たちがノルウェーに住んでいれば悩むことは何もなさそうだ。

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 みつい・まりこ 高校教員、東京都議、大学教員などを経て大阪府豊中市とよなか男女共同参画推進センター初代館長などの傍ら女性解放運動に従事。ノルウェーの平等・福祉政策をメディアなどで紹介し続ける。米コロンビア大学大学院を修了。著書に『ノルウェーを変えた髭のノラ』(明石書店)など。

「再生」第81号(2011年6月)

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