小尾信彌: 連続講話  宇宙と人間

第4回・第5回 「宇宙と人間―万物は宇宙に還る」(要旨)

 140億年前のビッグバンによって時間と空間が生まれた。その1秒後までに自然界に存在する基本的な粒子と4つの力が出そろい、宇宙の進化の材料と筋書ができ上がった。天文学者・小尾信彌さんの連続講話「宇宙と人間」の第4回は1月24日、最後の第5回は2月14日に、いずれも東京都新宿区神楽坂の研究社英語センター大会議室で開かれた。ビッグバンから銀河の時代の終幕まで語られ、「人間は宇宙の点のようなところで今の瞬間を生きている」と締めくくった。
(まとめ=本会理事・松井覚進)

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■立証されたビッグバン説

フリードマンやハッブルの業績によって、1930年代には宇宙は膨張しているという考え方が一般的になった。では、「膨張宇宙」を過去にさかのぼればどうなるか。銀河と銀河がくっつき、やがて小さな宇宙に物質がぎゅうぎゅう閉じ込められ、超高温で超高密度の宇宙にたどりつく。これは無限に昔の話ではなく、有限な時間内での出来事である。

 (ジョージ・ガモフの写真を掲げて)ソ連時代に原子核の構造に量子力学を応用して成果をあげていたガモフは、亡命した米国で1946年にビッグバン説をとなえ、宇宙は爆発によって誕生したとした。そのエネルギー放出の残照は、今でも宇宙いっぱいに漂い、温度は絶対温度で5Kから7Kであると、1951年に発表した。しかし、そのころには誰もまじめに受け取らなかった。(Kは、英国の物理学者Kelvinに由来。0Kは全粒子が静止している状態を示し、それより低い温度はありえない。K≒摂氏度+273°)

 ところが、1965年になって、ベル電話研究所の若い電波科学者ぺンジャースとウイルソンが手作りのアンテナで宇宙は約3Kの電波エネルギーに満ち満ちていることを発見した。宇宙背景放射といい、ガモフのビッグバン説が立証された。2人は1978年にノーベル物理学賞を受けた。現在では、この背景放射は2.8Kとされている。

■宇宙創成1秒後には4つの力

宇宙の中で働く4つの力で宇宙の森羅万象を説明できる。古くから知られている「電磁力」と「重力」のほかに、20世紀になって「強い力」と「弱い力」がミクロの世界に存在することがわかった。

 「強い力」を1とすると、「電磁力」の強さは100分の1、「弱い力」は10兆分の1(10‐13)、「重力」は10兆分の1の10兆分の1の10兆分の1(10‐39)である。しかし、重力は100億光年離れていても作用する。

 宇宙は時間の流れのなかで生まれたのではない。宇宙は時間とともに生まれた。宇宙のなかで最も短い時間は10-43秒で、ミクロの世界をコントロールする基本定数「プランクの定数」hと「重力定数」Gと「光の速度」cの組み合わせで計算される。これを「プランクの時間」といい、物理法則が成り立つようになったときの時間。これより短い時間は定義できない。「プランクの時間」10-43秒のときの宇宙の温度は1032度。これより高温は私たちの宇宙にはない。このときの宇宙の大きさは10-33センチであった。

 宇宙は膨張するにつれどんどん温度が下がっていく。温度が下がって水蒸気が水に、水が氷になるときに潜熱を出すように、宇宙全体に莫大なエネルギーが放出され、火の玉宇宙が出来る。その過程で4つの力も生まれた。

 まず「プランクの時間」10-43秒のときに重力が現われ、10-11秒のころ、初め10-33センチだった宇宙は1センチとなり、強い力と、やがて電磁力と弱い力ができた。

 ビッグバンから1秒後には陽子(p)、中性子(n)、電子(e)、陽電子(e+)、ニュートリノ、光の量子といった基本粒子はすべて出そろっていた。電子と陽電子は大部分が光の量子「フォトン」となった。ビッグバンから1秒後の宇宙の温度は100億度だったのが、3分後には10億度に下がる。そのときまでに陽子と中性子は衝突して結びつき、ヘリウムの原子核をつくった。このときの宇宙の主成分は水素核とヘリウム核。水素10個に対してヘリウム1個の割合だった。

■光の宇宙から物質の宇宙へ

光の量子フォトンの数は、2.8Kの背景放射から5.5億個/立方メートルとなる。一方、核子(陽子ないし中性子)は、0.6個/立方メートルと計算できる。つまり1個の核子に10億個のフォトンが対応している世界である。

 核子の質量は1.7×10-24グラムであるから、特殊相対論(E=mc2)からE=1.7×10-24×c2。これと10億個のフォトンのエネルギーを比べると、核子のエネルギーの方が1500倍も大きい。従っていまの宇宙は物質宇宙だといえる。

 ところが、宇宙が今より小さく1500分の1のとき、波であるフォトンの波長も1500分の1となり、振動数は逆比例して1500倍だった。フォトンのエネルギーも1500倍、宇宙の温度も今より1500倍高く、2.8K×1500≒4000Kとなる。これはビッグバンから約30万年たったときの温度である。つまり30万年を境として、それ以前は「光の宇宙」であり、その後は重力が中心の「物質の宇宙」となり、原始的な銀河が、やがてその中では無数の星々が生まれた。

 30万年までに存在していたのは水素とヘリウムの原子核の状態。まだ原子になっていない。バラバラの電子によって光は散乱されるから、宇宙は不透明で、どんな巨大な望遠鏡でも見ることができない。30万年たって4000Kのとき、熱の放射である2.8Kの背景放射をかろうじて見られるようになる。これが1965年にアメリカで発見された宇宙の背景放射である。

■星の原子炉が元素をつくった

(最終回は、白板に長い直線が引かれ、左端がビッグバン、次が1秒の目盛り、それから3分、数億年前、90億年、140億年、200億年、1兆年と次々に目盛られた)

 1秒で基本粒子と4つの力、3分で水素とヘリウムが出現し、数億年で原始的な銀河が生まれ銀河の時代が1兆年ごろまで続く。90億年に太陽が誕生して約200億年に寿命が尽きる。この間の140億年は現在である。(これはここまでの復習)。

 太陽もそうだが、ほとんどの星で水素とヘリウムの重さの比は約70:30になっている。ところが、地球も人間もそれだけでできてはいない。この自然界には92の元素がある。星はどんな元素をもつくり出す理想的な原子炉だった。炭素、窒素、珪素、マグネシウム、カルシウム、ネオン、ニッケル、ウラン、ラジウム、鉄――全部、星がつくった。

 普通の星の中心部は1000万度から3000万度。この中で4個の水素が核融合してヘリウムになる。この際、莫大なエネルギーが放出される。太陽がぜんぶ石炭でできていて化学反応によって今と同じエネルギーを出すとすると、10万年で燃え尽きてしまう。原子核エネルギーは化学エネルギーの約100万倍だから10万年×100万年で1000億年となるが、原子核エネルギーを出せるのはその中心部だけだから、100億年の寿命となる。ドイツに生まれ米国に亡命したハンス・ベーテは1000万度以上の星の中心部で起こる具体的な水素の核融合反応を明らかにして1967年にノーベル物理学賞を受けた。

 星の中心部で水素が燃え尽きると燃えかすのヘリウムとなり、中心部はつぶれ、密度は高まり、温度も上昇する。1000万度が1億度とか1億5000万度になり、それまで燃えかすと思っていたヘリウムが3個融合して炭素になる。炭素とヘリウムがくっつくと酸素に――だんだん重い元素ができる。こうして星は進化しながら中心部の温度が40億度を超えるまでになり、最後は鉄までが合成される。あるいは超新星の爆発をする。その火の玉の中で鉄をもとにウランまでのさまざまな元素が合成される。星の中心に鉄が溜まったところで星の進化は終わる。原子核エネルギーというのは、軽い原子核が融合すればエネルギーとなる。(例:水素爆弾)。逆に重い原子核が崩壊してもエネルギーを出す。(例:ウラン爆弾)。どっちヘいってもエネルギーが出ないところがある。それが鉄です。

 太陽では水素が燃えて中心部にヘリウムがたまると老年期に入り、ヘリウムが燃料になって炭素ができると、それ以上いかないで終わりになる。太陽より3倍、4倍重たい星だと、酸素やマグネシウムができるところまでいく。太陽の10倍ぐらい重い星では鉄ができるところまでいく。

 太陽の10倍の重さの星は爆縮によって中心部の芯は1立方センチが1億トンもの中性子星になる。もっと重いとブラックホールになる。これが重い星の終末である。

 太陽のような星は、数十億年後には1500万度だった中心部がつぶれて1億度ぐらいになりヘリウムが炭素になったり、炭素が酸素になったりする。このように老境に入ると、星は膨らんで明るくなる。太陽も半径が10倍から100倍に膨れ、水星も金星も地球も溶けて支離霧散してしまう。太陽の芯は死骸として残り、1立方センチが1トンぐらいの白色矮星となる。白色矮星や中性子星のような押しつぶされた星を「コンパクト星」といっている。

■水惑星の誕生

太陽の2~3倍重い星の中心部では2000万度という高温のときに核融合を有効にするための触媒として窒素ができる。宇宙の原初からあった水素とヘリウムに、こうしてできた炭素、酸素、ネオン、窒素、マグネシウム、珪素、硫黄、鉄を加えて「10種類の基本的な元素」といっている。直径10万光年の銀河の中心から約3万光年のところで、星間物質の濃い部分がだんだんと凝縮して太陽が生まれた。太陽の周りには原始的な惑星系の円盤状の雲ができる。基本的元素がいっぱい混ざっている100分の1ミリぐらいのダストです。これが惑星を始め太陽系の小天体になる。珪素と酸素から珪酸ができ、それにマグネシウムや鉄が結びついてかんらん石や輝石となるといった具合に岩石がつくられていった。水素やヘリウムのような軽い気体は逃げ、氷は溶けた状態で水星、金星、地球などに取り込まれた。これが火星までの姿。それより外側の木星や土星になると、水素やヘリウムのような軽い気体でできた天体。もっと外側の天王星や海王星は温度がより低いから水H2Oの氷、アンモニアNH3の氷、メタンCH4の氷に鉱物のダストがいっぱいまざっている状態だ。そういう惑星系ができた。

 地球は自転軸が傾いていて春夏秋冬の四季と、自転そのものによって昼と夜を生じる。太陽からの放射と温室効果で地球は温まる。大気には水蒸気や炭酸ガスやメタンガスが含まれていて温室のガラスの効果をするから、地面が放出する赤外線を通さない。地球は、H2Oが水蒸気、水、氷の3態でいられる特殊な条件に恵まれ、「水惑星」と呼ばれるようになる。たくさんの偶然が働いて生命が誕生した。生命がいかにして発生したかは、宇宙線や太陽風、太陽による放射や稲妻などいろいろな高エネルギーの放射が複雑に高まって誕生したと考えられる。

■自覚している宇宙

地球上で誕生した生命は数十億年の進化の後、700万年前には人間の直接の祖先が現われた。知的生物となった人間は、人間発生の大本の宇宙についてある程度それを眺め、ある程度それを理解している。人間は宇宙があるから存在する。宇宙のことを考えることができる。これを「自覚している宇宙」という。銀河の時代というのは、自覚が可能な時代である。宇宙にとって人間の存在は無意味ではない。

 一方、人間の欲望は文明の進歩とともに際限なく拡大した。個人のレベルではもちろん、民族、国家、宗教集団の間では紛争が絶えない。人間の知恵とか理性が科学や技術の進歩についていけない。それが改善される見通しもない。

 太陽の当初の燃料は100億年分あったが、すでに中年で、燃え方が盛んになって当初より20パーセント、30パーセントふえている。これからもふえる一方。地球型の惑星はやがて水分がなくなり、10億年とか20億年とかのオーダーで太陽の熱で焼けて星間物質に還元されてしまうだろう。

 太陽がうまれるずっと前から存在した諸元素は地球をかりて人間を構成している。ビッグバンから1秒ぐらいの間にできた水素は水を構成している。ビッグバン以来の痕跡は、人間にみられるものの、人間が宇宙に残す痕跡は何もない。

 星は爆発して、さまざまな元素は吹きとばされる。宇宙は諸元素で汚染され、そこから次の世代の星が生まれる。白色矮星や中性子星やブラックホールといったコンパクト星はふえるものの星の材料にはならない。主たる燃料である水素はただ減っていくだけである。銀河は長くは続かない。星や銀河が輝き、知的生命が育った環境のあるような宇宙に永遠というのはないんです。

 人間は空間的にも時間的にも、今の瞬間に現われて次の瞬間にいなくなる。点のようなところで今の瞬間を生きている。そんななかで人間はどんな存在なのか。どんな価値があるのか。

 われわれは銀河の時代のごく初期にいる。そして未来の太陽の熱で気体となって銀河系内の物質の循環の中にかえっていく。ピラミッドのような大きな墓はいらないと思うか、自分の気持ちをどこで満足させるか、自分なりに考えるしかない。

 (5回の連続講話を通じて、神の存在の有無、多次元の宇宙観、宇宙の地平線をどう認識するか、などさまざまな質問が出た。その内容は割愛する。「自分で考えるしかない」事柄でもあった)



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