小尾信彌: 連続講話  宇宙と人間

第1回 広大な私たちの宇宙 (要旨)

天文学者・小尾信彌さんの5回連続講話「宇宙と人間」の第1回は、「広大な私たちの宇宙」と題して2008年10月18日、東京・新宿区神楽坂の研究社英語センター大会議室で開かれた。約100人が聴講。その要旨をご紹介しましょう。
(まとめ=本会理事・松井覚進)

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■140億年前の痕跡が人体に

宇宙が始まったのは、今から140億年前。宇宙が成熟期に達し、太陽や地球ができてから46億年。この間に海や大陸や大気ができ、生物が生まれて、何百万年か前に人間の先祖が出現し、私たちがここにいるというわけです。

140億年前に宇宙が開闢(かいびゃく)してから3~4分たったころの痕跡、太陽や地球が生まれる前の痕跡が、私たちの体の中にはいっぱい入っている。宇宙と人間はどのくらい深くかかわっているのか。この講話が、これまでと違う観点から生き方やものの考え方の参考になればと思います。

■太陽は超高温のガスの塊り

天体は無数にあるが、種類となると50もない。近いところ、少し遠いところ、遠いところの3つに分けて話す。まず太陽系。(燃えている太陽の写真を掲げて)炎が上がったり下がったり、表面は激しく活動している。炎の高さは10万キロとか20万キロ。地球から月までの距離が40万キロだから、炎はその半分というような宇宙的な高さなのです。表面の温度は約6000度。中の方は10万度、20万度……200万度、300万度……どんどん高くなって中心部は1600万度ぐらいに。物質はすべてガス(気体)になるから、太陽は要するにガスの塊りです。ガスの塊りといっても、地球の33万倍の質量(重さ)だから、ものすごい重力がある。その重力でガスを全部1つにかため、1個の天体として存在している。太陽の質量の大体80パーセントが水素、およそ20パーセントがヘリウム。ほかの元素は2パーセントほどしかない。

太陽は重力が余りに大きいために、その周りに岩の屑のようなものを持っている。それを太陽系とよぶ。太陽系には数かぎりない天体がある。それを全部集めても、太陽の700分の1の物質しかない。太陽の700分の1の物質が、無数に分かれて周っている。

地球は太陽から1億5000万キロ(1天文単位=1AU)離れたところで天の北極(ほぼ北極星の位置)からみて反時計まわりに1年かけて周っている。8個の惑星は「水星・金星・地球・火星・木星・土星・天王星・海王星」。その外側に冥王星があったが、ここ20年の間に類似の小さな天体(カイパー天体)が非常に多数見つかり、これらは惑星とはいわない。火星と木星の間がひどくあいていることからケプラーの時代から何かあるだろうと考えられてきた。イタリアのパレルモ天文台で1801年1月1日に小さい惑星をみつけた。その後次々と見つかり、今では10万個以上に。小惑星とよぶ。

(ここで小尾さんは、アメリカのウィルソン山、パロマ、ヒットピーク、リックなどの天文台が撮った月の表面、金星、火星、木星、土星の写真を次々と示した)。これは1985年12月に藤井旭君が撮った76年ごとに出現するハレー彗星。これは池谷・関彗星。太陽系には、おそらく数億も数十億も彗星がある。彗星は岩の塊りに氷がくっついたもの。太陽の近くまでくると氷が解けて、長い尻尾を出す。太陽に近づくたびにやせ、数十回くるうちにはやせ細る。

■核融合のエネルギー

太陽系は私たちが考える以上に広大。いろんな天体がある。彗星が雲のようにあるところでは、太陽の光が届くのに半年も1年もかかる。太陽系の中で自分でエネルギーをつくっているのは太陽だけです。

太陽は80パーセントが水素で、中心は1600万度。水素の原子核は1個の陽子で、その周りを1個の電子がまわっている。熱や光のエネルギーで電子が電離している。熱運動はハイスピードだ。陽子と陽子が正面衝突する。+1と+1の電荷は普通なら反発するが、超スピードなので1つになる。これが核融合。こういうことが次々と起こる。4個の水素から1個のヘリウムの原子核ができ、その際に原子エネルギーが放出される。

1905年にアインシュタインが特殊相対性理論を発表、質量はエネルギーであるとした。

E=mc2。質量mに光速cの2乗(9×1020)を掛けるとmc2ergのエネルギーに変わる。4個の水素が核融合によって1個のヘリウムになる際の質量の差、それが太陽エネルギーの源です。1秒に5億6400万トンの水素が核融合してエネルギーを放出している。地球はそのごく一部を受け取っている。太陽は地球の33万倍重たいといっても、こんなに水素を使っていてはそのうちになくなる。太陽の中心部の水素は100億年で使い切る。大ざっぱにいって、太陽は生まれて50億年だから半分ぐらいの水素は使ってしまい残っているのはあと50億年分。太陽は永遠ではない。宇宙のなかに永遠は存在しない。始まりがあるものはいつか終わる。

■銀河系の星の誕生と消滅

太陽系から一歩広げると、銀河系が見えてくる。肉眼で2000個ぐらいは見える。天球上の位置が変わらないので恒星という。日本で見える一番明るい恒星シリウスでも55万AUあり、8年3ヶ月かからないと地球に光が届かない。ほとんどの恒星は光が届くのに数十年から数百年かかる。数百年というと、江戸期以前に出た光を見ていることになる(笑い)。それでも星全体からみれば極めて近いところにある。それほど星の世界は遠くに広がっている。

恒星までの距離を測るのに、光が1年かかってすすむ距離「光年」を使う。1光年は、9.46×1012キロ。大ざっぱに10兆キロ。

恒星は遠くの太陽。水素の核融合で光っている超高温のガスの塊り。これが無数にある。太陽に比べると、質量は0.1倍から50倍ぐらい、明るさは太陽の1万分の1以下から100万倍程度、表面温度は2000度から数万度程度です。恒星の世界は果てしなく続いているのではなく、小さなシステムをつくっていて、それを銀河系といっている。私たちの銀河は、上から見ると渦巻き状で、横から見ると、CDのディスクのようで、真ん中は穴ではなく少し膨らんでいる。直径10万光年。星は約2000万個ある。星の間の空間には微塵の混じったガス(気体)があり、ガスの大部分は水素とヘリウムです。

(オリオン座の星雲の写真を掲げて)雲全体は太陽の数十倍も百倍も重たい。雲の濃いところから新しい星が生まれる。一般に10も20も群れとなって生まれる。

プレアデス(日本名・昴)星団は、宇宙的に見て比較的最近生まれた。肉眼では6つ7つ見えるが、数十個ぐらいが群れになっていてガスがまつわりついている。

死んでいく星もある。(写真を示して)これは比較的小さい古い星が爆発して飛び散っている。昔の人は分かりませんからノヴァ(新星)とよんだ。しかし、古い星が死んで、このように周りにガスの輪を飛び散らすことがある。1054年、おうし座のところで星全体が飛び散った大爆発があったとアラビア、ヨーロッパ、中国で記録されている。中国の記録は日本に伝わり藤原定家の「明月記」に記録が残っている。そのあとを望遠鏡で見ると、このように飛び散っている。重い星が爆発したことがわかる。これをスーパーノヴァ(超新星)とよぶ。

超新星が爆発して、取り残された中心の星は太陽より重く、その重力で全部の物質を圧縮するから原子も壊れ、原子核も壊れ中性子という素粒子の塊りとなる。中性子星という。1立方センチが1億トンぐらいにつぶされている。それが1秒間に数十回も回転するから、強い磁場のもとで電波・光・エックス線を1秒間に30回点滅させる。脈(パルス)のように点滅するのでパルサーという。1967年にイギリスのヒューイッシュが見つけてノーベル賞を受けた。1立方センチが1億トンというような物質は理論的にはあり得ても、宇宙に実際に存在するとは誰も考えていなかった。極端に小さい地球にはないものが、宇宙には自然に実在する。宇宙は自然の実験室です。

(ここで小尾さんはスライド30枚余りを写し出した)
宇宙からくるエックス線を観測する人工衛星、スペースシャトルに取り付けられたハッブル宇宙望遠鏡、宇宙からの微かな電波を受け取る電波望遠鏡、アポロ17号の月面車が探査している月の表面、地球・火星・木星・土星・海王星といった惑星、太陽の表面から放たれているエックス線の像、太陽のコロナ、暗黒星雲や球状星団、オリオン星雲、噴出したガスがタバコの煙のように広がっている新星の爆発、アンドロメダ星雲、非常に強い電波天体クエイサー、アインシュタイン、アインシュタインができなかった方程式を解いたロシア人フリードマン、ビッグバン宇宙論の創始者ガモフ、手作りのアンテナによるデータでビッグバン宇宙論の確立に貢献したアメリカ人のペンジァスとウィルソンなど。

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 〈注〉「AU」はAstronomical Unitの略。「カイパー天体」は、カイパー・シカゴ大教授の業績にちなんで命名。



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