私は成年後見人
リーガルカウンセラー・綱川英治さんに聞く
高齢社会を支える新しい仕組みとして平成12年に成年後見制度がスタートした。身寄りのないお年寄りや痴呆症の人の権利を守る法律的システムとして関心を呼んでいるが、一般の人には今ひとつわかりにくいのが難点だ。いったい、どんな役割を果たすのか。制度発足当時から普及に努めている成年後見センター・リーガルサポート東京支部の副支部長で司法書士の綱川英治さんにインタビューした。
『再生』第55号(2004.12)掲載
-----------------------------------------------------------------■法定後見と任意後見
―― 成年後見の成年とはどういう意味ですか。後見というと辞書には「うしろだてになって補佐すること」とありますが、どんな人を対象にしているのですか。
綱川 20歳未満の未成年者には昔から民法で後見制度があり、親権者がいない場合や、親権者がいても親権を行使できない場合に家庭裁判所が後見人を選びます。新しくできた成年後見制度では、「後見される人」は法定後見と任意後見で状態が違います。
法定後見では精神上の障害で判断能力が衰えた人を対象としていて、第1は高齢者で痴呆になった人、第2は精神障害者です。おもに重い統合失調症の人ですね。 3番目は先天的に知的障害のある人です。どの場合も本人、配偶者、4親等以内の親族、身寄りのない人は市区町村長が家裁に申し立てをして後見人を決めてもらいます。
―― 高齢社会に対応する仕組みとして現在クローズアップされているのは、法定後見よりは「任意後見制度」と呼ばれるものですね。
綱川 法定後見制度の前身は「禁治産制度」と呼ばれていましたが、後見されることが戸籍に記載されるなど利用者に不利な点が少なからずありました。とくに超高齢社会を見すえる中で、新たな制度の必要性が広く議論されてきました。その結果、平成12年に民法が改正されて現行の制度に変わり、それと同時に「任意後見契約に関する法律」で任意後見制度が新しく出来ました。
そのポイントは、今はまだ正常だけれども将来自分の判断能力が衰えるかもしれない。とくに高齢や独り暮らしの方に不安がある。それを解決するために、自分が元気なうちにあらかじめ「任意後見契約」を結んでおくわけです。将来ぼけてしまったら、その契約が発効して、任意後見人がご本人の面倒を見ることになります。
■契約してから発効するまで
―― 後見する具体的な内容はどんなことでしょう?
綱川 法定後見、任意後見に共通して3つの柱があります。第1は財産の管理をすること。これには不動産の賃料収入の管理や有価証券、年金、預貯金の管理があります。第2は契約を結ぶ時の支援・アドバイス。3番目は身上配慮義務と呼んでいますが、生活の場をどのように設定して維持していくか。ご本人が病弱だったら、在宅で生活するか、老人ホームや特養を選択するほうがよいか、当事者や福祉・行政関係者と相談して最善の道を考えてあげることです。
―― 収入の管理とりわけ不動産収入や有価証券の管理などというと、お金持ちしか利用できないのではないかという声も聞かれそうですが。
綱川 人間が生きていくうえでお金の管理は絶対に必要です。年金と自宅があるというだけでも立派な財産です。大きな財産がない人ほど、収入支出についてのサポートが必要だと思いますね。そのためにかかるコストは別の問題として考えるべきでしょう。
契約の支援についても、判断能力のないお年寄りが最近では次々販売に繰り返し被害に遭っている。悪徳業者のネットワークがあって、互いに連絡を取り合って別の商品を次々に売りつけます。そんな時に後見人がいて契約をチェックしたり、取り消したりすることで被害から救うこともできるわけです。
―― 「任意後見契約」をあらかじめ結ぶというのはわかりました。ただ、私はまだぼけてはいない。後見してもらうのはぼけてから、ということになると、契約を結んでぼけるまでの関係はどうなります?
綱川 まず公証役場で任意後見契約を結びます。私の場合ですと、依頼人が実際にぼけてしまうまで、つまり契約が発効するまで生活支援のサポートをします。すぐ始めるのがお金の管理のお手伝いです。頭はクリアだけれど体が悪い、病弱な方が持ち家は他人に貸してご本人は特養に入っているケースですが、民法上の委任契約の形をとって、収入の管理や施設入居の支払いをします。
在宅の人なら、私は“見守り契約”といっているのですが、月にいっぺん本人から電話をもらって、半年に1回自宅訪問して生活状況を把握します。電話をしてもらうのがポイントで、電話番号をおぼえてキチンとかけてくる。これはまだぼけていない証拠です。
毎月電話するのが負担だという人もいて、3ヶ月に1度こちらから往復ハガキを出して返事をもらうようにしました。返信が生活状況のチェックシートになっています。
実際にぼけが進んだ場合は、家庭裁判所に申し立てをして、任意後見発効の指定を受け、契約内容にある財産管理・契約支援・身上配慮を行うわけです。任意後見人には裁判所が定めた監督人が付き、義務を果たしているかどうかチェックします。
■任意後見契約と遺言をセットに
―― 綱川さんは今、何人ぐらい後見業務を引き受けているのですか。また、それに伴う費用はどれくらいですか。
綱川 法定後見の関係では後見人、保佐人などがありますが合計7件。任意後見では10件です。任意後見では独り暮らしの高齢者の方が多いですね。依頼や相談はふえる一方です。報酬つまり依頼人が払う費用はケースバイケースですが、任意後見契約がまだ発効していなくて、年金と不動産の管理をしていて、ご本人が特養に入っていて月に1回訪問するというケースで月額1万5,000円です。もう少し手間がかかる人だと3万円ぐらいでしょうか。
本人がぼけてしまって契約が発効した場合は、定額報酬が月に3万円。それにプラスして不動産を売却した時とか遺産分割した場合など一定の率の報酬をもらいます。一方、法定後見の場合は報酬額はすべて裁判所が決定するので、標準といったものはありません。
―― この制度はどんな具合に運用されるべきだとお考えですか。
綱川 法定後見は昔の禁治産制度を引き継いだものですが、これからは今まだ元気な人の老後を保障する任意後見制度をもっと普及させるべきでしょう。それと障害を持つ子どもさんがいる親の場合、両親の死後どうなるか心配ですが、後見制度はそんな場合にも活用できます。その意味でも依頼者は任意後見契約の締結と遺言の作成をセットで考慮することをお薦めします。
それと後見人は本来は第三者、それもできれば専門家が望ましいと思います。身内だと、複数の親族が反目して本人が置きざりにされることがあります。財産を本人のために有効に使ってあげるという考え方は公正な第三者でないとなかなか出てきません。
―― 綱川さんは「葬送の自由をすすめる会」の会員でいらっしゃいますが、御自分の立場と今後の仕事のあり方をどう考えていますか。
綱川 私は7年前に会員になりました。母も会員で自然葬の生前契約を済ませています。墓は処分して親戚にあげました。私自身は浄土真宗の本願寺派で、自分の仕事を通じて社会のお役に立ちたい。成年後見の仕事を通じて一番願っていることは、自分自身が法律家というよりも臨床家として成長していきたいと考えています。
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