インタビュー

癌との向き合い方をホスピス医の大渕辰雄さんに聞く

 日本人の最大の死因である癌。超高齢社会が現実となった今、3人に1人は癌で人生の終わりを迎えるようになった。ともすれば悲壮感をもって語られる癌との闘いだが、実際にその苦痛や末期にはどうすればよいのか。癌といかに向き合うかを経験豊かなホスピス医である湘南中央病院( 神奈川県藤沢市 )副院長の大渕辰雄さんにインタビューした。  (本会理事・西俣総平)

『再生』第58号(2005.9.1)掲載

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■癌になったら多数派入り

―― 先生は癌の外科治療がご専門だそうですが、この病院では年間にしてどれぐらいの手術を手がけておられるのですか。

大渕  私はもともと消化器外科が中心ですけれど、婦人科や腎臓など“おなか”に関するものはなんでもやります。うちの病院では今は年間に大小とりまぜて500 例から600例の手術をします。もちろん癌の手術がメインですね。医学部(東大)を出てから都立の大久保病院の外科などで修業して、ここ(湘南中央病院)にきてから25年目になります。

―― 「あなたは癌ですよ」と診断されたら、ショックで立ち直れない人や、かえって病状が悪くなってしまう人もいるのではありませんか。

大渕  2 人に1人は癌にかかる時代になってきていますから、癌になったら多数派に入ったようなものです。もちろん、青天の霹靂と言う人もいますし、奈落の底へ突き落とされた感じだとおっしゃる方もいる。当座は落ち込むのが当然で、苦しんで、もがいて、それから立ち直っていきます。立ち直れないまま、病状が悪くなる人はまずいません。その過程でご本人をいかに支えるかが医師をはじめ周りにいる者の務めです。  ご本人にしても、自分の人生観をきちんと持っているかどうかで、ずいぶん違ってきます。患者さんに親しく接していくうちに教えられることが沢山ありますよ。

■手術しなかった患者

―― たとえばどんなケースですか?

大渕  癌が発見されても手術を受けないという方もいます。1人や2人でなくて、もっといらっしゃる。80をこえた男性ですが、胃癌が見つかった。あまり進んでいないので手術して十分に治せるとお話ししました。ところが、手術は結構だとおっしゃる。父親も胃癌だったし、父親の年もこえた。同じ病気で死ねるなら本望だと言うのです。ただし、痛みだけはちゃんと取ってほしいということでした。

 娘さんを呼んで聞いたら、希望通りにしてあげたいと言うので、手術はしませんでした。抗癌剤や放射線も副作用ばかりであまり意味がないので、治療はしないで年に1回、進行状況を見るだけにしたら、4年後に癌ではなく感染症で亡くなりました。

―― その方は手術をした場合とどっちが長生きしたでしょう?

大渕  今では癌の手術後の5年生存率が50%と言われています。この方の場合、手術しても5年以内に再発して亡くなったかも知れない。五分五分といったところでしょうね。

―― 手術をしないということは、もちろん治療そのものをおろそかにするという意味ではありませんね。

大渕  本人が何をしてもらいたいかよく聞いて、何をやってもいいから、たとえ試験的な治療でもいいから1日でも永らえさせてほしいという方には、その意向に沿ってやれるかぎり、対応していきます。

■本人の生き方を尊重

―― 最近、尊厳死に関連して、末期治療で点滴などのチューブをつないだスパゲッティ状態を拒否する人がふえました。

大渕  患者個人の選択や生き方と医者としての任務をどこで折り合いをつけるか、むずかしい場面にでくわしますね。末期のケースでも水分と栄養分を点滴で入れれば、あと何週間かは延命できるだろうという場合は、医者として延命を当然考えるわけです。

 私が経験した最初のケースは50代の乳癌の末期の方でした。点滴は一切いらないと言うので、ご主人と息子さんを呼んでよく話したら、本人の意志を尊重して点滴しないでほしいと言われました。点滴すれば何日か何週間か延命できると分かっているんですが、結局は点滴をしないで、体をふいたり、身の回りのお世話をするだけにしました。

 このときは自分としてはかなり悩みましたが、今では本人の生き方を尊重することに徹していこうと思っています。

■痛みはコントロールできる

―― 癌というと、どうしても七転八倒の苦しみを想像してしまいます。自分らしい生き方を貫くにしても、痛みだけは取ってほしいと思います。

大渕  今では10人のうち9人まではゼロとまではいかないにしても、痛みはほとんどコントロールできます。かえって、痛みと闘っているときは本人も夢中で忘れているのですが、痛みが取れると死への恐怖とか別れのつらさとか、精神的な苦しみが出てくることがありますね。

―― 昔に比べてモルヒネが十分に使えるようになった?

大渕  そうです。以前はモルヒネを大量に使うと健康保険ではねられることが多かったのが、癌の末期治療には制限なく使えるようになりました。それと、以前は麻薬中毒者の届け出を役所に出さないと癌患者にも使えなかった。それがなくなりました。

 一方で、麻薬管理が非常に厳しいので、モルヒネなど麻薬は一切置かないという開業医の先生も多いのです。麻薬を上手に使えば、癌の痛みはコントロールできる。けれども、正しい使い方、次々に出てくる新しい薬の使い方がむずかしい。麻薬の正しい使い方を医師に普及させる必要がありますね。

■自宅で最期を迎えるということ

―― 癌の苦痛緩和とホスピスの関係はどうでしょう?

大渕  現在、年間約30万人が癌で亡くなっていますが、ホスピスは全国に2,700ベッドしかありません。このため、ホスピスで亡くなる患者は年間で2万人を超えるか超えないかでしょう。私はホスピスで最後を迎えるのが必ずしもいいとばかりは思っていません。この病院でもホスピス病棟を建設中ですが、癌の患者でも自宅で過ごせるよう15年前から訪問看護を手がけています。

―― 癌の末期治療を自宅で行うとはいったいどんな仕組みですか。

大渕  この病院の在宅看護を受けて、これまで100人以上の患者さんが自宅で亡くなっています。在宅の場合、24時間対応で必要に応じて往診しますが、実際に医者が夜中に起こされることはほとんどありません。また、臨終に間に合うように医者がかけつけるというケースもありません。亡くなられたら、どういう経過をたどったか、あとで家族から病院に報告してもらっています。

―― 痛み止めのモルヒネ注射も家族がやるのですか。臨終まで家族だけで看取ることができるなんて考えたこともありませんが。

大渕  そのために、家族の方には患者が入院中に病院で注射の訓練を1週間ぐらいしてもらいます。それと衛生的で清潔な状態を保つことが必要ですね。肺癌などは呼吸管理があるので、在宅はむずかしいのですが、それ以外ならだいたい大丈夫です。

 もっとも、皆が皆、だれでもできるわけでもなく、いざとなったら、もし不安になったらいつでも病院に連れてきなさいと言ってあります。そういう安心感があって初めて在宅看護ができるわけです。在宅で末期を過ごす方が毎年、何人もいます。

■癌としっかり向き合っていく

―― 在宅の場合、家族の負担が大きいのではありませんか。

大渕  それはありますね。看護する家族が1人だとなかなかむずかしい。最低2人以上いないと、患者を看ているほうが先に参ってしまうことがあります。けれど、最近は癌と闘うというよりも、むしろ癌を正面から受け止めて、家族も本人も死を迎えるまでの間、しっかりと向き合っていく。そういう空気が強くなったと思いますね。

 大学病院とか、がんセンターのような特別な病院と違って、地域の病院ですと、再発したら最後までお世話するというのが原則です。癌を切っているばかりで済むのか。再発した患者、あるいは手術できなくなっている患者が年々ふえています。そういう方に何をして差し上げられるかというところが大きな課題です。

―― 大学病院で在宅治療とはほとんど聞いたことがありません。

大渕  大学病院で手術をして、再発してから私の病院に送られてきた患者もいます。ここと国立、県立のがんセンターは連携ができていますが、現状では全国的に見ると地域ごとの連携ネットワークづくりはまだまだ進んでいません。

■キムチを食べること、よく歩くこと

―― ところで先生は「葬送の自由をすすめる会」の会員でいらっしゃいますが、どんなきっかけで入会されたのですか。

大渕  中学、高校とも札幌でしたが、その当時から死んだら石狩川に散骨してもらい、4年たったら鮭になって戻ってきたいなと思っていました。骨壷に入るのは、人間だけが自然の輪廻にそぐわないことになるし、墓も要りません。たまたま、患者さんに会員の方がいて、会のことを知り、入会したわけです。

―― 本会の会員は中高年の方が多いのですが、健康を維持するための秘訣がありましたら教えてください。

大渕  老人の死亡率の30%は肺炎です。食物を誤って飲み込んで肺炎になるケースが多いのですが、カプトサイシンを摂取すると、飲み込む機能がよくなります。この物質はキムチに大量に含まれているので、小皿に1皿ぐらいキムチを毎日食べるとよいですね。

それと、ころばないこと。けがして動けなくなると老化が進みます。カルシウムをとって、体重を減らすため、なるべく歩く。脳の血流が改善されて、ぼけ防止にもなります。

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大渕先生の健康アドバイスは湘南中央病院のホームページ(http://www.swg.or.jp)に掲載されています。

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