インタビュー

私はジーター  高齢者のための健康法を体育科学者の秋田武さんに聞く

寿命が昔より格段に長くなっても、健康な毎日を過ごせなくては意味がない。老後を元気に送るために絶対に欠かせないのが適度な運動である。ウオーキング(以後、ウオーク)が体によいのは誰でも知っているが、どう歩けばより効果的か。健康科学の専門家で、自らウオークを実践している東京水産大学名誉教授の秋田武さん(66)にそのコツを聞いてみた。  (本会理事 西俣総平)

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■人間の基本は立つこと、歩くこと

―― ご自分のことを“ジーター”とおっしゃっていますが、先生の造語ですか。

秋田  大学を定年になってからは仕事をしていません。いわばフリーター(自由人)と同じですが、年をとったジジイだから、ジジイのフリーターで“ジーター”。家内は“バーター”。夫婦あわせて“ジバーター”と呼んでいるんです。

―― 大学ではどんな研究をなさっていたのですか。

秋田  名古屋で23年間、それから東京水産大に移って17年間、計40年間ずっと体育教育に携わってきました。大学では「海洋健康科学」という講座で、水泳をはじめ、マリンスポーツを教えながら、海洋科学や身体のエネルギー代謝の研究をしました。それと学生時代から柔道をやっていたものですから、柔道の指導監督をずっとしてきました。

―― 体育・健康科学が専門の先生の長年の経験から、健康を維持するため高齢者にはどんな運動がいいでしょう?

秋田  自分の好みのスポーツを持っている人はそれを続けるのが一番ですが、とくに運動はあまりしないという人には歩くこと、ウオークをお勧めします。野生動物は生きるためにエサを取って食べる。そのためには動(歩く・走る・その他)かなければならない。動けなくなったら、それは死を意味します。人間にもその名残が体に残っているんです。人間が生きるために動くことは“イロハのイ”なんですね。

―― 歩くほかに何か大切なことがありますか。

秋田  動くことの基本は、立つことと歩くことです。四足で歩いていたのが、立って歩くようになって、人間となりました。人間として、生きる原点の食事から排泄の生理機能は、立位が基本です。寝ていては消化も排泄もなかなかうまくいきません。最近の介護問題でも自力でしっかり立てるかどうかが1つの大事な基準になっています。年をとったから面倒だと、寝込んで動かないのが一番いけない(病気は別ですが)。私はこれを冗談に“横着炎(おうちゃくえん)”と呼んでいるんです。それも急性と慢性がある。年寄りが慢性の横着炎になったら先が長くない。とにかく日常生活の中で、自分で意識して体を動かさなければいけません。極端に言えば、はいずってでも動くこと、歩くことです。

■七色ウオークのすすめ

―― それでは誰にでもできる運動健康法を教えてください。

秋田  病気でドクターストップがかかっていない人で、特別な運動をなにもやっていない人には、まず毎日4キロ(週5万歩くらい)歩くことをお勧めします。現在の自分の生活のリズムの中で、プラス4キロです。およそ1時間です。雨が降っても風が吹いても、1日に4キロを1ヶ月間、休まずに続けてください。とにかく1ヶ月間、毎日歩いてみる。そうすると、歩くことのすばらしさに少しずつ気がつきだします。

―― 1日でも休んだらいけませんか。トレーニングジムのマシンでもいいですか。

秋田  最初の1ヶ月間は1日でも休まないように心がけるようお願いします。外が暑いとか寒いとか、いろいろと理屈をつけて休みたくなるものですが、だまされたと思って、もくもくと歩いてみてください。ジムも悪くはないのですが、外部の四季の気候の変化、日常の雨や風の変化を肌で感じることができないから、温室の作物みたいで、歩く効果が半分になってしまいます。外を歩く時間帯は早朝でも夜でもいつでもかまいません。外界の環境に接して、いろんなことを感じとるようになります。ひいては生きることの意味さえも体得できるようになりますよ。

―― 先生のウオークはどんなところですか。

秋田  “七色ウオーク”と呼んでいるんですが、自宅を中心にして7種類のコースを決めています。その日の気分や用事に合わせていろんなコースを歩いています。住まいが早稲田なので、一番よく歩くのは神田川沿いの道ですね。新宿、渋谷、池袋、銀座、上野、品川に行くときも可能な限り往復とも歩きですね。山手線の内側はほとんど歩いています。平均して1週間で10万歩のペースですが、これから始める人だったら、歩幅にもよりますが、5万歩です。1日1万歩いければ十分です。

―― 奥様と一緒にお歩きになりますか。

秋田  必要に応じて同行しますが、別々に歩くことが多いですね。夫婦でも歩く目的や時間帯が違いますから。一人ひとりの個人のリズムに合わせてコースを設定するほうが合理的です。女房や友達と話しながら歩く習慣がついてしまうと、一見楽しそうに見えるけれども、いざ1人ではなかなか歩かなくなる。相手に頼らないで1人で歩けるようにならなければいけません。自分と向き合い、歩く刺激で心身が躍動する感じを知ることです。それが自立するきっかけになるし、歩くことの1つの効果です。でも、おしゃべりウオークも楽しいので否定しているわけではありません。

―― 歩き始めたものの、長続きしない人が結構多いのですが。

秋田  ウオークと言っても、ただ歩くだけでは単調ですから、何か仕掛けをつくったほうがいい。家を出るための具体的な目的をつくると歩きやすくなります。そのためにはボランティア、各種の文化、スポーツ教室・講座に入るのがいいですね。仲間との楽しい会合・会話の刺激を求めて歩いていくわけです。歩くコースと行き先を組み合わせて、手を替え品を替え毎日違ったコースを歩きます。

■ウオーク、水泳、筋トレの3点セット

―― さて、もくもくと1ヶ月間歩きました。その次は何をしたらいいでしょう?

秋田  まず1ヶ月間、毎日歩いた人には、次のような私の行っている3点セットのメニューを紹介します。第1にウオーク。これは一生続けることですね。第 2は水泳です。理想的には週に3回、1回2時間でゆったりと泳ぐ。距離にして1500メートルぐらい。3番目は週1回の筋力トレーニングです。この3つを無理なくやれるようになるにはまず1年はかかりますが。

―― 年寄りにも水泳や筋トレが必要ですか。

秋田  はじめは自分勝手にやるのではなく、ジムのトレーナーと相談しながらやらなければいけません。個人差がありますから、筋肉に無理のない負荷をどうやってかけるかがむずかしい。けれども毎週1回ずつ続けて1年に48回の筋トレを積み重ねると、自分に一番合った筋肉の動かし方と負荷のかけ方がつかめて、トレーナーから離れて自分でできるようになります(時々、チェックは必要ですが)。最近では介護を予防するためにも筋トレが重視されていますが、元気なうちにあの環境に慣れておくといいです。

 水泳は、水によって体が適度の刺激を受けること、水に浮くことで心地よい無重力感があじわえることですね。ひざに痛みのある人もトレーナーの指導を受けて、ひざに無理な負荷をかけずに動かすこともできます。近ごろは、両方ともいろいろなスポーツ施設が充実してきていますから、積極的に利用するとよいでしょう。

―― これだけやれば、効果もかなりなものでしょうね。

秋田  毎日、規則的に歩くことだけでも生活習慣病から遠のきます。この病気は簡単に言うと“怠け病”“横着病”という一面も持っています。

 ダイエットが目的の場合、運動と食事の組み合わせは常識ですが、まず歩こうとする場合は、食事を気にする必要はありません。歩くことで食事が前よりうまくなるし、お酒もおいしく飲めるようになる。おいしいものを食べるのではなく、何でもおいしく食べることができるようになるのが、歩くことのもう1つの意味です。太りすぎないためにも、運動習慣をいかにして自分の体に呼び戻すかです。

■健康なジーターになるまで

―― 運動習慣を長続きさせるにはどうすればいいでしょう?

秋田  退屈だから、家の中では、テレビを見ながら運動したり、外では、ヘッドホンを聞きながら歩くことを“ながらトレーニング”と呼んでいます。これは運動に集中できないし、運動の躍動感を感じることができないので私はお勧めしません。たしかに時間を忘れることはできるかもしれませんが、運動をしている目的も忘れてしまいます。必要に応じて使い分けてほしいと思います。退屈だから、ヘッドホンをして座禅をするか。そんなことはありませんよね。動くことも同じです。マラソンを“動く禅”と言うと聞いたことがありますが、トレーニング・ウオークもそれに近いと思います。単純なことですが意義深く、奥深いものです。とにかく集中することです。

―― 先生ご自身は何か特別なコツをお持ちですか。

秋田  私は毎日の記録をつけています。ここに持ってきた「10年日記」はこれで2冊目ですけど、毎日の出来事のほかに、歩いた記録、食べた記録をつけています。距離、コース、食事のカロリー数、体重といったデータですね。漠然と歩くのではなく、その内容を記録しておく。それが科学的・合理的に歩くことにつながってきます。

―― 先生は柔道有段者とうかがいましたが、頑丈なスポーツマンのうえに健康科学の専門家だから、長続きしたとも言えませんか。

秋田  いえいえ、私はこれまで大病を2回しています。42歳の時に心臓を患い、52歳でいわゆる「燃え尽き症候群」になりました。この時は大学の仕事と柔道の仕事のストレスが重なったためですが、医師から両立は難しいといわれ、柔道から足を洗いました。回復するのに10年かかりましたね。50代からの 10数年は体育の原点に戻って歩くことに徹し、3点セットのおかげで、いま健康なジーターでいられます。

―― ところで先生は「葬送の自由をすすめる会」の創立直後からの会員でいらっしゃいますが、どんなきっかけで入会されたのですか。

秋田  52歳で病気した時に自分の死というものを見つめ、死後どういう形がふさわしいか考えました。その時に思ったのは、生きている世の中ではどうしても差が出る。せめて死後は平等でありたいと思って、墓をつくらずに散骨する道を選んだのです。場所は海、山どちらにもこだわっていません。今は各地を旅行しながら、一番いい場所を探しているところです。



『再生』第60号(2006.3.1)

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