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「自然葬その後」調査レポート

習慣的祭祀にとらわれず、「故人らしさ」を表現

――「自然葬その後」調査レポート――

6割強が自宅に追悼・祭祀の場

河野さつき(グェルフ大学社会・人類学部助教授)

 自然葬で送られた方は、その後どのような形で追悼・祭祀されているのでしょうか。
 一般的に、亡くなった方のためには葬儀
、墓所への納骨、法事、季節ごとの墓参、仏壇での儀礼などが行われています。一方、自然葬で送られた故人の遺骨は、分骨の場合を除き納骨されない為、墓での祭祀は行われないことになります。しかし、後述する「自然葬その後」調査の結果を分析してみると、自然葬で近親者を見送った人々は仏教色の濃い祭祀装置や行為を取捨選択し、故人の遺志を反映した多様な追悼スタイルを構築していることが明らかになりました。
 本稿では、自宅での追
悼行動、年忌などに行われる特別な行事、そして自然葬後実施地で行われる追悼行為の3点について、散灰が死者追悼にどのような影響を与えているのか考察してみたいと思います。

(調査には、遺族71名の方々に協力いただきました。回答者の中には複数の自然葬を行っている場合があり、故人76名についてデータを得ることが出来ました)

仏壇−−「置いている」のは4割

 自然葬の後、故人は仏壇に祀られるとは限りません。遺族・回答者71名のうち、仏壇を自宅に置いているのは29名(うち4名は神式)。1995年9月の朝日新聞の全国調査によれば、回答者の約6割が自宅に仏壇を置いているという結果が出ていますので、自然葬を行った近親者の仏壇保有率は低いと言えます。ただ、「自然葬その後」調査によれば、遺族・回答者のうち17名は棚やサイドボードなどに仏壇に準ずるスペースを設けているので、自宅に故人の為の追悼・祭祀の場を持つ人の割合は6割強となります。

戒名と位牌−−なくてもインフォーマルに追悼

 自然葬で送られた方々には、戒名や位牌もない場合が多く、故人76名のうち、戒名を持つのは28名のみで(未回答2名)、位牌があるのは31名でした(未回答3名)。戒名、位牌、仏壇の有無は相互に関連していて、戒名がある場合は大抵位牌もあり、位牌があるケースでは、仏壇もある家庭が多いようです。逆に、位牌のない場合は、大抵自宅に仏壇がありません。興味深いのは、位牌がない場合でも棚などに追悼の場を設けている近親者が多いことです。つまり、故人の位牌があれば、フォーマルな祭祀の場(仏壇など)を設け、位牌がない場合は、インフォーマルな場(棚など)を設けるという傾向がみられます。

写真−−飾っていないケースは稀

 自然葬後の死者追悼には、写真が大変重要な役割を果たしています。戒名を彫った位牌を置いていない場合でも、写真を飾っていないケースは稀です。故人の写真を飾っているのは遺族・回答者71名中60名で、飾っていない10名を大きく上回りました(未回答1名)。写真は仏壇に飾られるようないわゆる黒枠の遺影とはかぎらず、何枚もスナップ写真を集めてある場合もあれば、一枚だけ良いものを引き伸ばしている場合もあります。

日常の追悼行動−−「お供えする」と「写真飾る」は同数

 普段、自然葬で送られた方はどのような形で追悼されているのでしょうか。お供えは大多数の遺族・回答者(58名)によって行われています。具体的には、お花が圧倒的に多く(50名)、お水(33名)、お線香(30名)、お茶(22名)、ご飯(20名)となじみのあるお供えが続きます。その他としては、お酒、しきびなども供えられています。お供えは故人や遺族の好みや利便性、家の宗教などを考え合わせて選択されています。例えば、「故人は仏教的イメージの強い菊は嫌いだったので、菊以外の花を供えている」「住んでいるケアハウスの部屋では、規則で火が使えないので、お線香はあげていない」「家は神道なのでろうそくと榊を供えている」などの事例がありました。興味深いのは、お供えをすると回答した人数(58名)は、写真を飾っていると回答した人数(60名)とほぼ同数で、仏壇またはそれに準ずる棚を有していると回答した人数(46名)より多いことです。仏壇などの祭祀の場の有無にとらわれず追悼行動が行われていると考えられます。

 お供えのほかには、手をあわせる(回答者71名中39名)、祈る(31名)、読経する(11名)などの追悼・祭祀が行われています。中にはインターネットを利用し、近親者を追悼する為のホームページを作成し、故人を偲んでいるという事例も報告されています。

追悼の場の有無と追悼行動−−場を設けずとも4割の人は「祈る」

 祭祀の場の有無、形態によって追悼行動の内容はどのように変わってくるのでしょうか。「祈る」と「お花を供える」行為は、追悼の場の有無にかかわらず行われる傾向にありますが、その他の行動には追悼の場の有無による行動差がみられます。具体的には、仏壇を自宅に置いている人(25名)は、追悼の場を特に設けていない人(24名)より死者のために手を合わせたり、読経をしたり、お水、お茶、御飯、お線香を供える場合が多く、棚を設けている人も、設けていないと回答した人より頻繁に手を合わせたり、読経したり、各種のお供え物をしています。ただ、特に自宅に追悼の場を設けていない人でも、遺族・回答者の約4割が死者のために祈っており、半数がお花を供えています。

特別な行事−−コンサート、偲ぶ会、自然葬地の再訪

 亡くなった方の為には死者供養を行うのが一般的ですが、自然葬で近親者を送った回答者も何らかの行事を行っていることが明らかになりました(71名中55名)。自然葬後、故人の為に宗教儀礼(主に仏事)を行った遺族は21名。35名が親族や親しい人と食事会を行い、15名がその他の行事(コンサート、偲ぶ会、読経、自然葬の地を訪れるなど)を行っています。なかには、故人の「仏事をしてはならない」との遺言により、仏事は行わないという事例もありました。また、音楽が好きだった故人の為にメモリアルコンサートを開催したり、偲ぶ会で故人が好きだった詩を朗読したりと形式にとらわれない追悼行動が報告されています。

散灰地における追悼行動−−再訪したことがない人40人

 墓参は現代日本における国民的行事であり、1998年の全国世論調査の結果(日本放送出版協会「現代日本人の意識構造」2000年刊、138ページ)でも7割弱の人が年に1、2回は墓参りをしていると答えています。しかし、自然葬で近親者を自然に還した遺族にとっては、散灰地訪問は数ある追悼方法の一つでしかありません。
 自然葬後、散灰地、またはその近辺を一度
も訪れたことのない回答者は71名中40名。「散灰地は墓ではない」ので、一度も自然葬後散灰地に行ったことがないという70歳代の男性は、自宅に祭祀の場を設けておらず、日頃から特別な追悼行為を行うことはありませんが、命日には故人の写真を飾り、兄弟姉妹と共に偲ぶ会を行うそうです。散灰地を再び訪れた回答者の中では、自然葬後1、2回訪れている人が一番多く(23名)、1年に1回かそれ以上の頻度で訪れている人が6名。最も頻繁に散灰地を訪れているケースは毎月2回という回答者でした。自然葬が行われてから平均で4年経っていることを考えると、散灰地訪問は墓参りには程遠く、散灰地は墓と同様の役割を果たしているとはいえません。

多様な追悼行動−−習慣化したスタイル再考の機会に

 自然葬は従来の死者祭祀を否定する訳ではなく、慣習化した追悼行動を考え直し、故人やその遺族に合った意義ある追悼スタイルを創造する機会を与えていると考えられます。具体的には、仏壇などの慣習的祭祀装置に頼らず、また、お供え物も、無宗教の儀式で多用される(もちろん仏式の儀礼でも利用されますが)花のお供えを多用し、仏壇につきもののお線香は必ずしも使用していません。読経は稀です。一般的に死者祭祀には家族が担う部分と、専門家(僧侶、神官など)が担う部分がありますが、自然葬で近親者を送った遺族は、宗教家の関与を制限する傾向があります。具体的には、僧侶の読経が中心となる葬儀や法事より、親族、家族中心の食事会や偲ぶ会が行われることが多く、会場には宗教施設(寺)よりホテルやレストランなどの一般的な集会用空間が利用されています。
 ただ、回答者は慣習的な祭祀を否定しているとは限りません。仏壇・棚などを設けている回答者は、仏壇を中心とした慣習的祭祀(例えば、手をあわせる、お線香を供える、読経など)を行っている傾向がありますが、祭祀の場を設けていない人は、それにとらわれず、主に祈ったりお花を供えたりといった追悼行動を行っています。わざわざ従来の方法を避けて故人を偲んでいる人がいる一方で、慣習に従って法事を行っている回答者もあり、多様な追悼行動がみられます。

おわりに

 「墓からの自由」を追求する自然葬ですが、以上の考察の結果、葬送の自由だけでなく、慣習的祭祀からの自由をすすめる契機にもなっていることが明らかになりました。葬送儀礼が形骸化し、「自分らしい葬送」の形を模索する人が増えている現代社会において、今後は、自然葬が「自分らしさ」・「故人らしさ」を表現する手段になっている点をより深く追求したいと考えております。

最後に、この場をかりまして調査中大変お世話になりました安田会長、本部事務所の皆様のご厚情に感謝致します。また、会の格別なご好意により行わせていただきました自然葬に関するアンケート・面接には、多数の会員の皆様にご協力賜りました。深くお礼申し上げます。

「自然葬その後」調査結果

 遺族71名の方々(女性55名、男性16名)に、故人76名(男性56名、女性19名、不明1名)のケースについて回答いただきました。

故人のプロフィール(N=76)
子供の人数:平均1.84人
お墓の有無:有り(37名)、無し(37名)、未回答(2名)
お墓の承継者:いた(49名)、いなかった(20名)、未回答(6名)、わからない(1名)
戒名:有り(28名)、無し(46名)、未回答(2名)
位牌:有り(31名)、無し(42名)、未回答(3名)

ご自宅に、故人のお写真を飾ってありますか?(以下、数字は人数)
ある(60)
ない(10)
未回答(1)

ご自宅に、ご仏壇はありますか?
仏壇がある(25)
神式のものがある(4)
仏壇に準ずる棚がある(17)
ない(24)
未回答(1)

あなたが、ご自宅で、故人を偲ぶために行っていらっしゃることがありましたらあてはまるもの全てに○をしてください。(複数回答可)
手を合わせる(39)
祈る(31)
読経をする(11)
その他(8)
特に何もしていない(14)

ご自宅では、故人の為に何かお供えしていらっしゃいますか?(複数回答可)
花(50)
水(33)
お線香(30)
お茶(22)
御飯(20)
その他の供え物(12)
特になし(13)

あなたは、故人の為に自然葬が行われてから、再びその実施場所を訪ねられましたか?
訪ねた(30)
訪ねていない(40)
未回答(1)

故人の年忌に何か行事を行いましたか?(複数回答可)
法事を行った(19)
神式の行事を行った(2)
食事会を行った(35)
その他(15)
特に何も行わなかった(15)

河野さつき(かわの・さつき) 米国ペンシルバニア州ピッツバーグ大学大学院人類学部博士課程卒業(文化人類学博士号取得)。2004年からカナダに移住して現職。
 この稿は、アメリカで出版されている人類学の学術誌(エスノロジー、43巻3号、2004年)に掲載された論文の一部を、同誌編集者の許可を得て書き直したものです。このページは会員誌「再生」の記事のうち、会員以外の方々にも参考になると思えるものと、本会の主催した講演会やシンポジウムなどの記録やレポートを掲載しています。

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